2012年3月31日土曜日

昆虫ゲノム中のラブドウイルス由来配列

小島生物学御研究室でも「80. 脊椎動物ゲノムの中のRNAウイルス化石」として紹介したように、ここ1、2年の間に、ゲノムに挿入されたRNAウイルス配列が次々に見つかってきました。以下の論文もその1つで、節足動物の核ゲノム中にラブドウイルスの配列が挿入されている事を示しています。ラブドウイルスは狂犬病ウイルスを含む一本鎖RNAウイルスの仲間です。

Fossil rhabdoviral sequences integrated into arthropod genomes: ontogeny, evolution and potential functionality.
Fort P, Albertini A, Van-Hua A, Berthomieu A, Roche S, Delsuc F, Pasteur N, Capy P, Gaudin Y, Weill M.
Mol Biol Evol. 2012 Jan;29(1):381-90. Epub 2011 Sep 13.
PMID: 21917725 [PubMed - in process]

著者らはラブドウイルスの配列が節足動物のゲノムにだけ挿入されている事を報告し、その配列の詳細を解析している。そのほとんどは、Aedes aegyptiIxodes scapularisのゲノムから見つかり、一部の配列では負の淘汰圧が認められた。つまり、一部のラブドウイルス由来の配列は宿主の生存に有利に働いている可能性がある。

Aedes aegyptiは大量の転移因子を蓄積している事がわかっています。我々の仮説に従えば、このラブドウイルス由来の配列の挿入は集団サイズの縮小に伴って遺伝的浮動により蓄積された可能性があります。ただ、この論文のデータの場合には、逆転写酵素の活性が必須なので、レトロトランスポゾンの活性化に伴ってRNAウイルスの逆転写が頻繁に起こった可能性は否定できません。

2012年3月30日金曜日

ミトコンドリアでのテロメラーゼの役割

利己的遺伝因子の最古の家畜化の1つであるテロメラーゼタンパク質はテロメア反復配列の付加だけでなく、いろいろな経路に関わっていることが最近わかってきています。

Human telomerase acts as a hTR-independent reverse transcriptase in mitochondria
Sharma NK, Reyes A, Green P, Caron MJ, Bonini MG, Gordon DM, Holt IJ, Santos JH.
Nucleic Acids Res. 2012 Jan;40(2):712-25. Epub 2011 Sep 21.
PMID: 21937513 [PubMed - indexed for MEDLINE] Free PMC Article

テロメア反復配列を伸ばす役割を持つヒトのテロメラーゼのタンパク質部分(hTERT)は逆転写酵素の一種です。hTERTは核以外にミトコンドリアにも局在することが知られていましたが、その機能は不明でした。この論文では、ミトコンドリアにはテロメラーゼRNAは存在しないこと、しかしミトコンドリアにおけるhTERTの影響は逆転写酵素活性に依存していること、hTERTがミトコンドリア内でtRNAなどと結合していることを示しています。

2012年3月29日木曜日

彗星の衝突がヤンガー・ドリアス期を引き起こした?

ニュースによると1万2900年前ごろに北米大陸に彗星の衝突か空中爆発があったのが気候変動を引き起こしたという説が唱えられたようです。

縄文時代にも大規模な彗星衝突か 米などの研究チーム

北米大陸には剣歯虎やマンモスなどの大型の哺乳類が多数生息していました。しかし人類の到達と前後してこれらの大型動物たちは絶滅してしまいます。このため、人類による狩猟が大型哺乳類の絶滅の原因だという考えが長らく支配的でした。しかし、実際には、大型動物の減少は人類の到達以前から始まっていた可能性が高いことがわかってきており、今回の報告もその流れに沿ったもののようです。

Evidence from central Mexico supporting the Younger Dryas extraterrestrial impact hypothesis
Israde-Alcántara I, Bischoff JL, Domínguez-Vázquez G, Li HC, Decarli PS, Bunch TE, Wittke JH, Weaver JC, Firestone RB, West A, Kennett JP, Mercer C, Xie S, Richman EK, Kinzie CR, Wolbach WS.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Mar 5. 109 (13): E738-E747
PMID: 22392980 [PubMed - as supplied by publisher] Free Article

2012年3月28日水曜日

恐竜絶滅以前の多丘歯目哺乳類の適応放散

脊椎動物の歴史において中生代は爬虫類の時代、新生代は哺乳類の時代だとよく言われます。実際には新生代は鳥類の時代でもあるのですが、それはさておき、哺乳類の祖先は本当に中生代には恐竜のおかげで肩身の狭い思いをしていたのでしょうか?

Adaptive radiation of multituberculate mammals before the extinction of dinosaurs
Wilson GP, Evans AR, Corfe IJ, Smits PD, Fortelius M, Jernvall J.
Nature. 2012 Mar 14;483(7390):457-60. doi: 10.1038/nature10880.
PMID: 22419156 [PubMed - in process]

哺乳類は一般に恐竜が白亜紀末に絶滅した後に恐竜のくびきから解放されて多様化したと考えられています。しかし一方で哺乳類の中生代の化石には多様性が認められますを。著者らは中生代に繁栄した哺乳類のグループ多丘歯類の生態的多様性を体系的に解析しています。それによると多丘歯類の多様化は恐竜絶滅の2000万年以上前には始まっており、顎の形態から、食虫性から食植性への進化がはっきりと示されました.これらのことは哺乳類の多様化が恐竜の絶滅によって始まったのではなく、被子植物の進化によって引き起こされたのだということを示しています。

2012年3月27日火曜日

不完全な擬態

昆虫のハチ、アリに擬態している昆虫は多数存在します。ハチに擬態した虎縞模様を持つ昆虫としては、ガ、カミキリムシ、などが知られていますが、最も多くみかけるのはアブの仲間ではないでしょうか?

A comparative analysis of the evolution of imperfect mimicry
Penney HD, Hassall C, Skevington JH, Abbott KR, Sherratt TN.
Nature. 2012 Mar 21;483(7390):461-4. doi: 10.1038/nature10961.
PMID: 22437614 [PubMed - in process]

ハナアブ(hoverfly)はハチの仲間に擬態しているハエの仲間です。彼らのベイツ型擬態は完璧なものもあれば、完璧とはとても言いがたいようないい加減なものもあります。この論文では何故いい加減な擬態が成立しているのかを調べています。その答えは、ハナアブは小さくて餌としてはあまり魅力が無いため。体のサイズと擬態の完璧さは相関しており、餌として魅力的な大型の種では擬態を完璧に近づけないと捕食されてしまうらしい。

2012年3月26日月曜日

オーストラリアのメガファウナの絶滅

メガファウナとは大型動物を指し、食料を大量に消費する事から環境への影響が大きい生き物たちです。現在ではゾウがそれに当たります。有史以前、氷河期にはメガファウナが多かったのですが、人類の到達と時期をほぼ同じくしてメガファウナのほとんどは滅びてしまいました。
最近ではアメリカ大陸のメガファウナの絶滅は人類の到達が直接の原因ではないという説が主流になってきたように感じていましたが、オーストラリアのメガファウナへの人類の影響を示した論文が出版されました。

The Aftermath of Megafaunal Extinction: Ecosystem Transformation in Pleistocene Australia
Rule S, Brook BW, Haberle SG, Turney CS, Kershaw AP, Johnson CN.
Science. 2012 Mar 23;335(6075):1483-1486.
PMID: 22442481 [PubMed - as supplied by publisher]

この論文では、オーストラリアのメガファウナの絶滅が気候変動よりも人類の到達による影響が大きく、それにより熱帯雨林が草原にシフトしたことを示唆する結果を得ています。

2012年3月22日木曜日

飛べない甲虫の多様化

Nature Communicationsに掲載された甲虫類の多様化に関する論文の全文日本語訳が出ていました。

飛翔能力の退化が甲虫類の多様化を促進する

カブトムシやクワガタムシなどの仲間、甲虫類は動物の中で最も種数が多いグループです。昆虫は飛翔能力を獲得した節足動物として非常に繁栄していますが、一方で飛ぶ能力を喪失した系統が頻繁に発生しています。ノミ、シラミなどの寄生性のものはもちろん、ナナフシ、アリ、ガ、など多くのグループで飛べなくなった種が存在しています。これは空を飛ぶコストが非常に高い事に起因しています。羽根だけでなく、飛翔のための筋肉の発生、維持には大量のエネルギーを必要とするためです。
論文では飛ぶ能力を喪失した系統を含むシデムシ類を用いて、飛べないグループでは飛べるグループに比べて集団間の遺伝的距離が増加していることを示しています。飛べない事により集団間での遺伝子の交流が少なくなり、集団間で分化が起こりやすくなることを示しています。このようにして甲虫類は非常に種数が多くなったようです。

原著論文は以下。
Loss of flight promotes beetle diversification
Ikeda H, Nishikawa M, Sota T.
Nat Commun. 2012 Jan 31;3:648. doi: 10.1038/ncomms1659.
PMID: 22337126 [PubMed - in process] Free PMC Article

2012年3月19日月曜日

MER20と胎盤形成

胎盤形成にはPEG10などのBEL superfamilyのLTR retrotransposonが関わっていることが知られていましたが、hAT superfamilyのDNAトランスポゾンもリクルートされているようです。

Transposon-mediated rewiring of gene regulatory networks contributed to the evolution of pregnancy in mammals
Lynch VJ, Leclerc RD, May G, Wagner GP.
Nat Genet. 2011 Sep 25;43(11):1154-9. doi: 10.1038/ng.917.


この論文では、哺乳類の子宮内膜細胞における遺伝子調節を比較RNA-Seq法によって調べ、有胎盤類の子宮内膜細胞では1532の遺伝子が新たに発現していることを見つけている。これらの遺伝子の内、13%では転移因子MER20が200kb以内に位置していた。MER20がエンハンサー、インシュレーター、リプレッサーとしての活性を持っており、妊娠に必要な転写因子に直接結合し、プロゲステロンやcAMPに応答して遺伝子発現を協調的に調節することがわかった。これらの結果は妊娠の進化が遺伝子調節ネットワークの大規模な再構築に伴って生じた可能性を示している。

2012年3月18日日曜日

MEGA5 Mac版インストール

首都大の田村先生らが作っているMEGA5がMac OSXやLinuxに対応していることを発見しました。これまでもMEGAが相当便利なことはわかっていたのですが、Windows PCを研究に使っていないので意識的に無視していました。しかし、Macでも使えるとなると別で、早速インストールしてみました。

MEGA::Molecular Evolutionary Genetics Analysis

Mac版は実際には、Wineskinの上にWindows版を載せたものです。Wineskinは、WineというLinux系OS上でWindows用に作られたソフトウェアを動かすためのプログラムのGUIをMacOSXネイティブ風にしたもののようです。細かい話はともかく、インストールも起動も、Mac用のソフトウェアと全く変わりありませんでした。以前試してみたPublish or Perish + Wineよりも遙かに快適です。

2012年3月17日土曜日

ミクロラプトルの羽毛

4枚の翼を持つ、鳥類に近い小型恐竜Microraptorは虹色に光る羽根を持っていた可能性があるそうです。

虹色に輝く黒い羽根=1億3000万年前の小型恐竜—異性にアピール? ・米中チーム

Reconstruction of Microraptor and the evolution of iridescent plumage.
Li Q, Gao KQ, Meng Q, Clarke JA, Shawkey MD, D'Alba L, Pei R, Ellison M, Norell MA, Vinther J.
Science. 2012 Mar 9;335(6073):1215-9.
PMID: 22403389 [PubMed - in process]

鳥類の羽根が虹色に光るのは、メラニンを含んだ顆粒メラノソームが綺麗に並んでいるためです。恐竜のMicroraptorの化石を調べたところ、メラノソームの並び方が虹色に光る鳥類の羽根に似ていることがわかりました。もしかしたら、羽根は当初からセックスアピールに用いられていたのかもしれません。

2012年3月16日金曜日

Google Scholar Citations

先日必要があり、自分の論文の引用件数を調べていました。もちろん以前からGoogle Scholarで引用件数が調べられるのは知っていたのですが、統計も表示することができるということを発見しました。

そこで、自分の論文の引用件数の統計を作成して、公開してみました。
Google Scholar Citations
ウェブサイトにも修正してリンクを貼っておきました。

Google Scholarは非常に良くできた解析ツールで、On lineで見ることができる論文は全て表示されます。ただ、同じ論文が違うサイトにあったりすると二重で表示することがあります。それらはMerge機能を使って一緒にすることができます。一方、他人の論文が混ざってしまうこともありますが、こちらはDelete機能で削除できます。雑誌に掲載されるタイプの学会のAbstract(Genes and Genetic Systemsに載る遺伝学会の要旨など)もあったのですがこれらは引用されることは基本的に無いし、少なくとも生物系では論文としても認められないので削除しました。

まとめてみると順調に引用件数が増えているのがわかり少し嬉しくなりました。今のところ、引用件数は重複した論文が含まれているのはわかっているので完璧なデータではないのですが、無料で使えてこれだけの使いやすさならばとても便利です。

2012年3月15日木曜日

平ぺったい頭を持ったワニ

復元図が気に入ったのでもう一つEpoch Timesから。

‘Shieldcroc’: The Prehistoric Crocodile With a Bump On Its Head

原著論文は以下。
A new eusuchian crocodyliform with novel cranial integument and its significance for the origin and evolution of Crocodylia.
Holliday CM, Gardner NM.
PLoS One. 2012;7(1):e30471. Epub 2012 Jan 31.

9500万年前の地層から見つかったクロコダイルの仲間Aegisuchus witmeriを報告した論文です。

2012年3月14日水曜日

地下2キロのトビムシ

Epoch Timesの記事から。

Deepest-Living Terrestrial Invertebrate Found Near Black Sea

トビムシは原始的な昆虫(六脚類)のグループで土壌中に多く生息する微少な生物です。ロシアコーカサス山脈にあるKrubera-Voronjaは知られている中で最も深い洞窟で地下 2.191 kmまで達します。その地下1.98 kmの地点から4種のトビムシが見つかりました。そのうちの1種はPlutomurus ortobalaganensisと名付けられたそうです。

以前紹介した地底に住む線虫はこれよりも深い地下で見つかりましたが、この線虫は自然の洞窟ではなく、かつての鉱山の坑道から見つかったものでした。

原著論文はTerrestrial Arthropod Reviewsという雑誌に掲載されていますがネットでは見られないようです。

2012年3月13日火曜日

Repbase Reports Volume 12, Issue 2

Repbase Reportsの今年第2号が出版されました。今号では、大豆(Glycine max)の配列を報告しています。

Repbase Reports Volume 12, Issue 2

Repbase ReportsはGIRIが発行している、真核生物の反復配列を報告するオンラインの科学雑誌です。配列、分類と簡単な特徴の報告だけですが、反復配列の一次情報源として利用されています。論文でも引用されています。Repbase Reportsに掲載された配列は、反復配列データベースであるRepbase Updateに収録され、配布されています。学術研究者はユーザー登録することでどちらも無料で閲覧できます。

2012年3月12日月曜日

マウス系統間の挿入欠失多型

最近、次世代シーケンサー等を用いて大規模に系統間、個体間の挿入欠失多型を調べる研究を多く見ます。以下の論文もその1種。

Sequence-based characterization of structural variation in the mouse genome
Yalcin B, Wong K, Agam A, Goodson M, Keane TM, Gan X, Nellåker C, Goodstadt L, Nicod J, Bhomra A, Hernandez-Pliego P, Whitley H, Cleak J, Dutton R, Janowitz D, Mott R, Adams DJ, Flint J.
Nature. 2011 Sep 14;477(7364):326-9. doi: 10.1038/nature10432.

マウスの系統間で見つかる挿入欠失多型を711920個解析したところ、半分以上はレトロトランスポゾンの挿入であった。割合はLINEが最も多く(25%)、SINE(15%)、LTR retrotransposon(14%)と続く。多くではTSDも同定できた。

2012年3月11日日曜日

脂質生産性藻類のゲノム

目下イランの核開発問題で原油の価格が上昇しています。日本も原発を停止し、化石燃料に依存した経済に向けて突き進んでいます。そんな中、バイオ燃料生産に貢献するであろう生物のゲノム解読が報告されました。

Draft genome sequence and genetic transformation of the oleaginous alga Nannochloropis gaditana
Radakovits R, Jinkerson RE, Fuerstenberg SI, Tae H, Settlage RE, Boore JL, Posewitz MC.
Nat Commun. 2012 Feb 21;3:686. doi: 10.1038/ncomms1688.
PMID: 22353717 [PubMed - in process]

Nannochloropsis gaditanaは二次共生藻類である真正眼点藻植物(Eustigmatophyceae)の一種です。この藻類の仲間は生産性が高く、脂質を蓄積する性質があるため、バイオ燃料のソースとして着目されています。この生物のゲノムを解読し、脂質生産性を更に向上させた藻類を開発してバイオ燃料生産に利用しようというのがこの研究の目的です。

結果の詳細については文章で書いてもわかりにくいので、論文を参照してください。

2012年3月10日土曜日

ゴリラゲノム

ヒト、チンパンジー、オランウータンに続いて最後の大型類人猿ゴリラのゲノムが解読されました。

Insights into hominid evolution from the gorilla genome sequence
Scally A, Dutheil JY, Hillier LW, Jordan GE, Goodhead I, Herrero J, Hobolth A, Lappalainen T, Mailund T, Marques-Bonet T, McCarthy S, Montgomery SH, Schwalie PC, Tang YA, Ward MC, Xue Y, Yngvadottir B, Alkan C, Andersen LN, Ayub Q, Ball EV, Beal K, Bradley BJ, Chen Y, Clee CM, Fitzgerald S, Graves TA, Gu Y, Heath P, Heger A, Karakoc E, Kolb-Kokocinski A, Laird GK, Lunter G, Meader S, Mort M, Mullikin JC, Munch K, O'Connor TD, Phillips AD, Prado-Martinez J, Rogers AS, Sajjadian S, Schmidt D, Shaw K, Simpson JT, Stenson PD, Turner DJ, Vigilant L, Vilella AJ, Whitener W, Zhu B, Cooper DN, de Jong P, Dermitzakis ET, Eichler EE, Flicek P, Goldman N, Mundy NI, Ning Z, Odom DT, Ponting CP, Quail MA, Ryder OA, Searle SM, Warren WC, Wilson RK, Schierup MH, Rogers J, Tyler-Smith C, Durbin R.
Nature. 2012 Mar 7;483(7388):169-75. doi: 10.1038/nature10842.
PMID: 22398555 [PubMed - in process]

ゴリラはチンパンジー/ボノボに次いでヒトに近い霊長類です。ゴリラゲノムの30%は、チンパンジーよりもヒトに近縁、あるいはヒトよりもチンパンジーに近縁であることがわかりました。これはincomplete lineage sortingと呼ばれ、祖先集団で保持されていた多型が異なった割合で子孫集団に受け継がれることによって起こる、種の系統関係と遺伝子の系統関係の不一致によるものです。これらの領域は遺伝子の周辺では少なくなっており、遺伝子への淘汰の影響を受けていない領域が偶然にincomplete lineage sortingを起こしているようです。

近年ゴリラは2種に分けられるのが定説となりつつありますが、そのニシゴリラとヒガシゴリラの分岐時期は175万年前くらいで、その後も遺伝子の交流は続き、ヒガシゴリラでは個体数の急減が起こったこともわかりました。

2012年3月9日金曜日

The Castroville Mammoth Project

先日スタンフォードの生涯学習の一環として開催されている講演会に行ってきました。このプロジェクトは研究費を獲得して行われたものではなかったため、研究成果だけではなく、発掘の過程で様々な苦労があったことも紹介されていました。

The Castroville Mammoth Project

Castrovilleはシリコンバレーから数十分の距離にある海岸近くの田舎町です。2010年12月にとある農家の兄弟がアーティチョーク畑の開墾の途中に大きな骨を発見したのが事の発端です。ググってマンモスの骨だとわかった後、彼らは二人じめにするのではなく、科学者を呼んで研究する道を選びました。それだけでなく、アーティチョーク畑を広げるのも中断し、研究のために様々な道具を提供しました。発掘はStanford大学も含めた地元のいろいろな大学の有志により手弁当で行われました。そのための研究費があるわけではなく、学生のボランティアと近所の農家やレンジャーの寄付によって成立したプロジェクトでした。

発掘されたマンモスの種類はコロンビアマンモス(Columbian mammoth, Mammuthus columbi)です。コロンビアマンモスはいわゆるイメージされるところのマンモスであるウーリーマンモスとは異なり、短毛の象でした。このマンモスの体毛も見つかり、DNAの抽出ができるかどうか現在試みられているそうです。

2012年3月8日木曜日

白亜紀のノミ

大昔のノミ、体長は2センチ 英科学誌に発表

白亜紀のノミは、体長がメス1.4-2cmでオスが0.8-1.4cmあったそうです。確かに哺乳類ではなく、鳥類や恐竜に寄生していそうですね。

でもニュース記事ではよくわからないので、原文を当たってみました。いつもどおりAbstractだけですが。

Diverse transitional giant fleas from the Mesozoic era of China

ノミはシリアゲムシやハエの仲間と近縁なことが知られているが、確かな中生代の化石は見つかっていなかった。この論文では、白亜紀の地層から、確実なノミを報告している。このノミは跳躍のための後脚は発達していない原始的な特徴を示しているが、サイフォンのような細長い吸血用の口を既に持っている。これは細長いサイフォンの形をした口を持つシリアゲムシからノミが派生したことを示唆している。

2012年3月7日水曜日

孤島のナナフシ

ビデオが衝撃的だったのでNPRの記事を紹介します。

Six-Legged Giant Finds Secret Hideaway, Hides For 80 Years

オーストラリアの沖合にLord Howe Islandという島があります。ここにはかつて12センチにもなるナナフシDryococelus australisが生息していました。ところが、1918年に座礁した船に乗っていたネズミが上陸したことで1920年には一頭も見られなくなってしまいました。

Lord Howe Islandから13マイルほど離れた小島Ball's Pyramidは700万年前に噴火でできた火山島です。島とはいうもののあまりに小さく、荒れ地に一握りの植物が生えているだけです。ところが、2001年にオーストラリアの研究者David PriddelとNicholas Carlileがこの島からDryococelus australisを再発見したのです。一つの植物に24頭が群がっていました。採集の許可が下りた2003年に4頭をオーストラリアに持ち出し、そのうち2頭(一つがい)の繁殖に成功したため、現在では700頭以上に増えており、現在はこれらの飼育個体を野生に戻すため、Lord Howe Islandのネズミを駆逐してDryococelus australisを放す試みが行われています。

さて、衝撃的だったのは、ナナフシが卵からふ化する過程をとらえたビデオです。小さな卵の中から、驚愕する長さのナナフシの幼虫が出てきます。

2012年3月6日火曜日

トウモロコシ

トウモロコシは転移因子の研究者にとっては特別な生き物かもしれません。なぜなら、転移因子がBarbara McClintockによって最初に発見されたのはトウモロコシからだからです。テオシンテという種の数の少ない野生種から、人為選択によって種のたくさん付く系統が選ばれて出来たのがトウモロコシであると考えられています。
以下の論文によると、トウモロコシがテオシンテよりも頂芽優勢が強いことの理由の一部がteosinte branched1(tb1 )の調節領域に挿入されているレトロトランスポゾンHopscotchのエンハンサー活性によって説明できるそうです。HopscotchはCopia型のLTRレトロトランスポゾンです。またこの変異は1万年以上前に起こっていました。つまり、栽培の過程で新規に突然変異が起こったのではなく、もともと野生種に出来ていた多型を人為選択していくことでこの転移因子の挿入がトウモロコシで固定されたのだということがわかりました。

Identification of a functional transposon insertion in the maize domestication gene tb1
Studer A, Zhao Q, Ross-Ibarra J, Doebley J.
Nat Genet. 2011 Sep 25;43(11):1160-3. doi: 10.1038/ng.942.

2012年3月5日月曜日

TogoDoc Client

以前からiPapers2が論文検索中に頻繁に落ちていました。ついに最近検索すると常に落ちるようになってしまったので、先日から他の論文整理ソフトを試しています。とりあえず無料のものを。

TogoDoc ClientはPubMedに登録された論文情報を使ってダウンロードされた論文を整理するソフトウェアです。私はほとんどPubMedしかチェックしない私にとってはこれで大丈夫かと思い、試してみました。

TogoDoc Client

論文ファイルの自動解析を行なうには、ダウンロード後、Database Center for Life Science (DBCLS)にアカウントを作る必要があります。

iPapersは論文をダウンロードしたらそのまま名前をつけて整理してくれるので大変重宝していたのですが、TogoDocにはそのような機能はありません。その代わりに、ブラウザーなどでダウンロードしたPDFファイルを自動で整理してくれる機能があります。自動解析でどの程度まで情報が取得できるか試してみました。結果として、いくつか問題点を発見。

(1)パスワードによる許可がないと情報の抽出が出来ない(保護された)PDFファイルでは、たとえPubMed IDを入力しても情報をPubMedから取ってこない。(Genes and Genetic Systems, 2002年のNucleic Acids Res, 2002年のEMBO Journalなどが該当した)
(2)たまに間違った論文情報を取ってくる。(これはマイナーな雑誌の論文に多かった。)
(3)マイナーな雑誌の論文の情報を検索すると重く、たまに落ちる。
(4)スキャンしたままで公開されているような古いPDFファイルは情報が取得できない。(これは改善の余地がなさそうですが...)

他の問題としては、
TogoDocから論文検索をしてもダウンロードできない場合が多い。
など。これは、新しい論文のPDFファイルは問題なく情報を抽出できるようなのでブラウザを使って解決できそうです。逆にTogoDocから論文を検索するメリットは無さそう。

PubMed検索と自分のところに保存された論文の検索が別々になってしまうので、同じ論文を何度もダウンロードしてしまう問題点がありそうです。内部で検索までできたiPapersより多少不便ですが、まあまあ使えそうなのでしばらく使ってみることにします。

2012年3月4日日曜日

新しい転移因子スーパーファミリーZisupton

新しいDNA transposon superfamilyとしてZisuptonが報告されました。

Zisupton - a novel superfamily of DNA transposable elements recently active in fish.
Böhne A, Zhou Q, Darras A, Schmidt C, Schartl M, Galiana-Arnoux D, Volff JN.
Mol Biol Evol. 2012 Feb;29(2):631-45. Epub 2011 Aug 27.

Volffのチームは以前から観賞魚のプラティーXiphophorus maculatusの研究を続けています。non-LTR retrotransposonのRex1, Rex3, Rex5, Rex6などの名前もRetrotransposable element of Xiphophorusの頭文字を取ったものです。BohneらはY染色体に挿入されている転移因子を発見し、Zisuptonと名付けました。このZisuptonと、他の生物のZisuptonを比較したところ、コードされているタンパク質の中央部に保存された領域が見つかり、おそらくこれが転移酵素であろうと考えられます。しかし、既知の転移酵素と比較しても類似性は示されず、本当に転移酵素かどうかはまだ不明です。また、そのC末側にUlp1あるいはOTUタイプのプロテアーゼがコードされています。転移の際に8塩基のtarget site duplicationを作ること、近縁のプラティー間で挿入多型が見られることからつい最近には転移していたこともわかりました。

真核生物のDNAトランスポゾンがコードしている転移酵素のほとんどはDDEタイプです。それ以外の酵素をコードしていることが明らかなのは、SuperfamilyレベルではHelitronとCryptonしかありません。また、AcademとNovosibについてはDDEタイプなのかどうかが配列レベルでは判断できません(Yuan&Wessler(2011)ではDDEタイプとしてますが私は疑問を持っています)。Zisuptonは明確にDDEタイプではないので、実際どのような機構によって転移しているのか興味が持たれます。

2012年3月3日土曜日

Monarch Butterfly

Asilomar Conference GroundのあるPacific GroveにはMonarch Butterflyの越冬地があります。昨年は3月下旬に行って寝坊の個体だけを見てきたのですが、今回は2月末で、鈴なりになっている越冬集団を見ることができました。

ドクチョウなので食べられるのを防ぐ意味ではないでしょうが、翅を閉じて止まっていると枯れ葉が木の先にぶら下がっているようでした。

ちらほらと飛んでいる個体もいましたが、まだまだ彼らにとっても寒い季節です。地面に落ちてしまった個体は動くことができず、道路には踏みつぶされた個体も...



2012年3月2日金曜日

Asilomar Deer

Asilomar Conference Groundには奈良公園ほどではありませんが野生の鹿が住んでいます。講演会場に行く前に見かけました。

2012年3月1日木曜日

Roy Britten

Asilomarの学会でも何度も紹介されていましたが、真核生物に反復配列があることを発見したRoy Brittenが今年1月21日に亡くなりました。全DNAのハイブリダイゼーション実験でゲノムサイズから考えられるよりもとても速くハイブリダイズするDNAがあることにより示されました。反復配列による遺伝子制御という概念を提唱されたのも1970年代です。まさに我々の業界の先駆者です。

Roy John Britten (Wikipedia)

今回の学会にもボスが招待していたのですが、その時には既に体調が悪く、欠席の連絡を受けていました。是非一度お会いしたかったのでとても残念です。