2012年9月26日水曜日

始新世末の大量絶滅

最近Wikipediaを見ていて初めて知ったのでメモ。

Eocene–Oligocene extinction event

白亜紀末の大絶滅は有名ですが、それ以後にも大量絶滅がありました。これは始新世(Eocene)と漸新世(Oligocene)の境界にあたる約3,400万年前に起こりました。その原因は諸説ありますが、その一つは隕石の衝突で、Popigai、Toms Canyon、Chesapeake Bayの3つのクレーターを生んだ隕石衝突が寒冷化の原因とするものです。
Popigaiクレーターは直径100km、およそ3570万年前にできたと推定されているシベリアのクレーターです。
Chesapeake Bayクレーターは直径90km、およそ3500万年前にできたと推定されるクレーターで、北米バージニア州のChesapeake Bayの一部の地形を形作っています。
Toms Canyonクレーターはおよそ3500万年前にできたと推定されているクレーターで、Chesapeake Bayクレーターから約322km離れて、北米ニュージャージー州の沖合の海底に位置します。

原因を火山の噴火に求める仮説などもありますが、何が原因にせよこの時期を境にして地球は寒冷化に向かい、氷床の形成、海面の低下などが起こり、主に海洋動物が絶滅しました。南極の氷床の形成の開始はちょうどこの時期に一致します。

2012年9月25日火曜日

gene body methylationされる遺伝子の性質

gene body methylationとはプロモーター領域ではなく、遺伝子のmRNAとして転写される領域がメチル化される現象です。これは動物でも植物でも見られる現象ですが、その役割はよくわかっていません。

The evolution of invertebrate gene body methylation.
Sarda S, Zeng J, Hunt BG, Yi SV.
Mol Biol Evol. 2012 Aug;29(8):1907-16. Epub 2012 Feb 10.
PMID: 22328716 [PubMed - in process]

この論文ではミツバチ、カイコ、ホヤ、イソギンチャクの4種の無脊椎動物のメチル化を解析し、タンパク質配列が保存されている遺伝子ほどgene body methylationが起こっている事を明らかにしています。これらの遺伝子には転写や翻訳に関わるhouse keeping geneが多く含まれていました.一方で昆虫の進化の過程でメチル化されなくなった遺伝子には、シグナル伝達や生殖に関わる遺伝子が多く含まれていました。

2012年9月20日木曜日

子宮内膜でのプロラクチンプロモーターは転移因子由来

プロラクチンは下垂体前葉から分泌されるホルモンで、乳汁合成や妊娠維持など様々な機能を制御する。また胎盤や子宮でも産生されることが知られている。

Convergent Evolution of Endometrial Prolactin Expression in Primates, Mice, and Elephants Through the Independent Recruitment of Transposable Elements
Emera D, Casola C, Lynch VJ, Wildman DE, Agnew D, Wagner GP.
Mol Biol Evol. 2012 Jan;29(1):239-47. Epub 2011 Aug 2.
PMID: 21813467 [PubMed - indexed for MEDLINE]

ヒトを含む霊長類で子宮内膜でのプロラクチン産生を制御するプロモーターは内在性レトロウイルスのMER39に由来する。しかし霊長類以外でもプロラクチンを子宮内膜で合成するものは存在する.この研究では、子宮内膜でのプロラクチン産生は哺乳類共通の特徴ではない事を明らかにしている。子宮内膜でのプロラクチン産生はウサギ、ブタ、イヌ、アルマジロでは起こらない。起こるものでも、プロラクチンの子宮内膜での合成を制御するプロモーターは霊長類、マウス、ゾウでそれぞれ異なっていた。クモザルではヒトと同じMER39、マウスでは別の内在性レトロウイルスMER77、ゾウではnon-LTRレトロトランスポゾンのL1-2_LAから派生した配列がプロモーター機能を担っていた。従って、子宮内膜でのプロラクチン産生は別々の転移因子が取り込まれてプロモーター活性を提供する事で独立に進化して来た事がわかる。

2012年9月19日水曜日

RNAウイルスが宿主から取り込むRNA

Host RNAs, including transposons, are encapsidated by a eukaryotic single-stranded RNA virus
Routh A, Domitrovic T, Johnson JE.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Feb 7;109(6):1907-12. Epub 2012 Jan 24.
PMID: 22308402 [PubMed - indexed for MEDLINE] Free PMC Article

エンベロープを持たないRNAウイルスのflock house virus (FHV)を精製し、RNAをシーケンスしたところ、その1%は宿主に由来するRNAであった。リボソームRNA、mRNA、non-coding RNAと転移因子由来のRNAが含まれていた。これらのRNAは水平伝播する可能性がある。また、医療にウイルスを利用する際には、このような宿主由来RNAの存在は無視できない問題となるだろう。

2012年9月18日火曜日

Neoavesの初期進化

Retroposon Insertion Patterns of Neoavian Birds: Strong Evidence for an Extensive Incomplete Lineage Sorting Era
Matzke A, Churakov G, Berkes P, Arms EM, Kelsey D, Brosius J, Kriegs JO, Schmitz J.
Mol Biol Evol. 2012 Jun;29(6):1497-501. Epub 2012 Jan 3.
PMID: 22319163 [PubMed - in process]

鳥類は恐竜類の一部から白亜紀に派生したと考えられています。しかし、鳥類内部の系統関係は一部を除いてあまり明らかになっていません。この論文では、レトロトランスポゾンの挿入を指標にして鳥類の系統関係を解析しています。しかし、Neoaves(現生ではダチョウの仲間、キジの仲間、カモの仲間を除いた全ての鳥類)の初期分岐については、共有する挿入相互に矛盾が見られることから、ほぼ同時期に多数の系統が分かれた事が示唆されました。
これは真獣類の3大系統間の関係とも類似していますが、鳥類の分岐の方がかなり新しいようです。

2012年9月17日月曜日

三畳紀末の大量絶滅と硫化水素汚染

Hydrogen sulphide poisoning of shallow seas following the end-Triassic extinction
Sylvain Richoz, Bas van de Schootbrugge, Jörg Pross, Wilhelm Püttmann, Tracy M. Quan, Sofie Lindström, Carmen Heunisch, Jens Fiebig, Robert Maquil, Stefan Schouten, Christoph A. Hauzenberger & Paul B. Wignall
Nature Geoscience 5, 662–667 (2012) doi:10.1038/ngeo1539

三畳紀末の大量絶滅の時期には、火山の大噴火とその後の森林火災により大気中の二酸化炭素濃度が非常に高かった事が知られています。この論文では、テチス海の浅瀬に由来する岩石を解析することで、大絶滅に続くジュラ紀初期に緑色硫黄細菌が大量増殖していた事を明らかにしています。これはこの時代に硫化水素が大気中に大量に存在していた事を示しています。また緑藻も大量に生育しており、低酸素状態であったことも示唆されます。以上からは、大量絶滅後の残存硫化水素の毒性と低酸素状態が生物相の回復を遅らせたと考えられます。

2012年9月14日金曜日

ナミハダニのゲノム

ナミハダニ(Tetranychus urticae)のゲノムが解読されました。節足動物の4大グループ(鋏角類、多足類、甲殻類、昆虫類)の内、鋏角類では初めての報告です。

鋏角類といえば、以前やっていたテロメア反復配列の研究で、昆虫型のTTAGGでも動物普遍型のTTAGGGでも線虫型のTTACGGでもないことが示唆されており、どのような構造をしているのか気になっていました。この論文では、TTAGGタイプのテロメアを持っていると書かれています。しかもTTAGGタイプのテロメア反復配列の間にTRASに似たnon-LTR retrotransposonが挿入されているそうです。カイコとその近縁種で見つかったTRASはテロメア反復配列と同じ向き、つまり(TTAGG)nの向きに挿入され、別のグループSARTは逆向き、(CCTAA)nに挿入されています。ナミハダニのTRASはカイコのTRASと同じ向きに挿入されています。TRASは系統解析から元々起源が古いことが予測されていたので順当な結果ではあります。

The genome of Tetranychus urticae reveals herbivorous pest adaptations
Grbić M, Van Leeuwen T, Clark RM, Rombauts S, Rouzé P, Grbić V, Osborne EJ, Dermauw W, Thi Ngoc PC, Ortego F, Hernández-Crespo P, Diaz I, Martinez M, Navajas M, Sucena E, Magalhães S, Nagy L, Pace RM, Djuranović S, Smagghe G, Iga M, Christiaens O, Veenstra JA, Ewer J, Villalobos RM, Hutter JL, Hudson SD, Velez M, Yi SV, Zeng J, Pires-Dasilva A, Roch F, Cazaux M, Navarro M, Zhurov V, Acevedo G, Bjelica A, Fawcett JA, Bonnet E, Martens C, Baele G, Wissler L, Sanchez-Rodriguez A, Tirry L, Blais C, Demeestere K, Henz SR, Gregory TR, Mathieu J, Verdon L, Farinelli L, Schmutz J, Lindquist E, Feyereisen R, Van de Peer Y.
Nature. 2011 Nov 23;479(7374):487-92. doi: 10.1038/nature10640.

2012年9月13日木曜日

父親の年齢が子供の突然変異に及ぼす影響

Rate of de novo mutations and the importance of father’s age to disease risk
Kong A, Frigge ML, Masson G, Besenbacher S, Sulem P, Magnusson G, Gudjonsson SA, Sigurdsson A, Jonasdottir A, Jonasdottir A, Wong WS, Sigurdsson G, Walters GB, Steinberg S, Helgason H, Thorleifsson G, Gudbjartsson DF, Helgason A, Magnusson OT, Thorsteinsdottir U, Stefansson K.
Nature. 2012 Aug 23;488(7412):471-5. doi: 10.1038/nature11396.
PMID: 22914163 [PubMed - in process]

アイスランドの78組の親子のゲノムを解析したところ、受精時の父親の年齢が1歳上がるごとに新規の塩基置換が2つ増えることが示された。

脊椎動物では卵の形成に比べて精子の形成の方が遥かに多くの細胞分裂を経ます。このため、より多くの突然変異が父親からもたらされることが予測されます。これが雄駆動進化説です。上記の結果は当然といえば当然のものですが、母親側の出産年齢だけが大きく問題とされている現状に一石を投じるものでしょう。

2012年9月12日水曜日

三日熱マラリア原虫の多様性

既に数種のマラリア原虫のゲノムが読まれていますが、今回更に1種4系統の配列が報告されました。今回読まれたのは、三日熱マラリア原虫Plasmodium vivax。マラリアは現在5種に分類されるマラリア原虫、すなわち、熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)、三日熱マラリア原虫(P. vivax)、四日熱マラリア原虫(P. malariae)、卵形マラリア原虫(P. ovale)、サルマラリア原虫(P. knowlesi)、によって引き起こされる感染症です。

The malaria parasite Plasmodium vivax exhibits greater genetic diversity than Plasmodium falciparum
Neafsey DE, Galinsky K, Jiang RH, Young L, Sykes SM, Saif S, Gujja S, Goldberg JM, Young S, Zeng Q, Chapman SB, Dash AP, Anvikar AR, Sutton PL, Birren BW, Escalante AA, Barnwell JW, Carlton JM.
Nat Genet. 2012 Aug 5. doi: 10.1038/ng.2373. [Epub ahead of print]
PMID: 22863733 [PubMed - as supplied by publisher]

著者らは4系統のPlasmodium vivaxのゲノム配列を読んだ。SNPでの多様性で見ると、Plasmodium vivaxの多様性はPlasmodium falciparumの2倍程度にもなった。

2012年9月11日火曜日

Repbase Reports Volume 12, Issue 8

Repbase Reportsの今年第8号が出版されました。今号では、ショウジョウバエ5種(Drosophila simulansDrosophila rhopaloaDrosophila takahashiiDrosophila persimilisDrosophila sechellia)、カイコBombyx mori、擬態の研究材料にされている蝶の一種Heliconius melpomene、霊芝Ganoderma lucidum、ギンザメの一種Callorhinchus miliiArabidopsisに近縁な耐塩性植物Eutrema parvulumの転移因子を報告しています。

Repbase Reports Volume 12, Issue 8

Repbase ReportsはGIRIが発行している、真核生物の反復配列を報告するオンラインの科学雑誌です。配列、分類と簡単な特徴の報告だけですが、反復配列の一次情報源として論文でも引用されています。Repbase Reportsに掲載された配列は、反復配列データベースであるRepbase Updateに収録され、配布されます。学術研究者はユーザー登録することでどちらも無料で閲覧できます。

2012年9月10日月曜日

2012年第11回BAS年次合同セミナー

過去2回参加しているBAS年次合同セミナーの案内を見つけたのでリンク。

2012年第11回BAS年次合同セミナーの開催と演題募集のお知らせ

会期:10月6日(土曜日)
研究発表: 午後1時から
懇親会:  午後5時頃から(懇親会のみの参加も可)
場所:UCSF-Mission Bay Campus Genentech Hall Auditorium
参加費:1人10ドル(当日集めます。懇親会費を含みます) 発表者と学生は無料