2012年6月30日土曜日

がん細胞でのL1、Aluの挿入

次世代シーケンサーでヒトのゲノムを解読し、新規のL1やAluの挿入を報告する論文が続いています。今回はScienceにがん細胞特異的な挿入を解析した研究が報告されています。がん細胞の由来による違いと、低メチル化との関係は興味を惹かれます。

Landscape of Somatic Retrotransposition in Human Cancers

がん細胞(脾臓、前立腺、卵巣、グリア細胞の癌、多発性骨髄腫)の患者から癌細胞と血液細胞のゲノムをいわゆる次世代シーケンサーで解読したところ、194個の体細胞でのL1/Alu挿入が見つかった。これらは全て上皮細胞の癌(脾臓、前立腺、卵巣)で見つかり、他の癌では見つからなかった。確認のために一部を選んでPCRをすると、TSDや5’末端の欠失などの特徴がわかり、ほとんどの挿入がL1の転移機構によることが確認できた。

遺伝子のタンパク質コード領域に挿入されている例は一つも見つからなかったが、UTRやイントロンに挿入されている例は多数見られ、実際にそれらは転写量を変化させていた。遺伝子と同じ向きの挿入の場合には顕著に転写量の減少が見られるが、逆向きの場合には統計上有意なほどの転写の減少は見られなかった.挿入されている遺伝子には、癌抑制遺伝子や細胞間接着に関わる遺伝子が多く見られた。挿入によりこれらの遺伝子が壊れた細胞は癌化の際に有利なため選択的に増殖するのだろう。

L1の挿入はゲノムの低メチル化領域に偏っている。生殖細胞系列でのL1の挿入は、精子形成時に特異的に起こる低メチル化領域に、がん細胞での挿入は癌特異的に起こる低メチル化の領域に偏っている事が確認できた。

2012年6月29日金曜日

オープンアクセス

今週号のNatureに学術雑誌のオープンアクセス化についてその費用をどのように負担して行くべきかという記事が載っています。ほとんどの研究は税金によってなされているのですから、少なくとも出資した国民には公開されてしかるべきだと思います。

Openness costs

2012年6月28日木曜日

ボノボゲノム

大型類人猿の最後の種のゲノムが解読されました。大型類人猿はいわゆるヒトを含めないヒト科の霊長類で、チンパンジー、ゴリラ、オランウータンの3グループが含まれます.このうち、チンパンジー、ニシゴリラ、スマトラオランウータンのゲノムが高精度で解読され、ヒガシゴリラとボルネオオランウータンのゲノムも低精度ながら読まれています。最後がボノボ(ピグミーチンパンジー)だったわけです。

The bonobo genome compared with the chimpanzee and human genomes

2012年6月6日水曜日

トマトのゲノム

トマトのゲノムが解読されました。

The tomato genome sequence provides insights into fleshy fruit evolution
Tomato Genome Consortium.
Nature. 2012 May 30;485(7400):635-41. doi: 10.1038/nature11119.
PMID: 22660326 [PubMed - in process]

トマトは学名Solanum lycopersicum。この論文では野菜として開発されたトマトと、近縁な野生種Solanum pimpinellifoliumのゲノムを解読し、近縁種であるジャガイモのゲノムと比較しています。属名が示すようにこの3者は近縁ですが、ジャガイモは芋(地下茎)を、トマトは実を食用にするという違いがあります。トマトとジャガイモは2回の三倍体化を経ており、これらにより獲得された重複遺伝子が独自の機能を持つ事で果実の色や肉付きが生まれました。