2012年12月26日水曜日

アリハチのミュラー型擬態

毒を持つ動物同士がお互いに似た姿になった形の擬態をミュラー型擬態と呼びます。一方、無毒の種が有毒の種に擬態する場合はベイツ型擬態と呼ばれます。捕食者がより速く学習して、その種を忌避するようになることが、ミュラー型擬態のメリットです。

Repeated evolution in overlapping mimicry rings among North American velvet ants
Wilson JS, Williams KA, Forister ML, von Dohlen CD, Pitts JP.
Nat Commun. 2012 Dec 11;3:1272. doi: 10.1038/ncomms2275.
PMID: 23232402 [PubMed - in process]

この論文では北米産のアリハチの仲間を解析し、65種ものDasymutilla属のアリハチ類が6つの互いに形態のよく似たグループに分けられる事、この形態の類似性が並行進化した事を明らかにしています。ちなみにアリハチ類はアリとは異なり針を持っています。

2012年12月24日月曜日

2種類のウイルスの協調

RNAウイルスは、RNA polymeraseの複製の際の高いエラー率により、速く進化します。麻疹ウイルスはエンベロープタンパク質をコードするRNAウイルスです。エンベロープタンパク質はウイルス粒子の外側の膜と細胞膜とを融合させ、ウイルスを細胞内に侵入させる役割を持っています。

Cooperation between different RNA virus genomes produces a new phenotype
Shirogane Y, Watanabe S, Yanagi Y.
Nat Commun. 2012 Dec 4;3:1235. doi: 10.1038/ncomms2252.
PMID: 23212364 [PubMed - in process]

組換えによりエンベロープタンパク質の機能を破壊した麻疹ウイルスをしばらく継代するとやがて膜融合の機能を回復した変異ウイルスが自然に発生しました。意外な事に、これらの変異ウイルスは2つのRNAを同じウイルス粒子中に含んでいました。1つは野生型のエンベロープタンパク質を持ち、もう一つはタンパク質の機能を破壊されたエンベロープタンパク質をコードしていました。それぞれ単独では細胞膜を融合させることができないものの、2つ同時だと効率よく膜融合を起こす事ができました。これは別種のウイルスの協調と呼べる現象で、もしかするとウイルスの進化において重要な役割を果たして来たのかもしれません。

2012年12月22日土曜日

ディアトリマ

新生代初期の恐鳥類ディアトリマが実は草食性だったかも?という話。

Giant Flightless Bird Was Probably Vegetarian

2012年12月21日金曜日

Onychodictyon ferox

lobopodと呼ばれる、葉状肢を持つ生物群は、節足動物の姉妹群、祖先群と考えられており、進化を考える上で重要な研究対象です。この論文では、新種のカンブリア紀のlobopod、Onychodictyon feroxの詳細な頭部構造を報告しています。節足動物やその近縁群の進化では、頭部の附属肢や顎の構造が相同かどうかが大きな焦点となっています。

Cambrian lobopodians and extant onychophorans provide new insights into early cephalization in Panarthropoda
Ou Q, Shu D, Mayer G.
Nat Commun. 2012 Dec 11;3:1261. doi: 10.1038/ncomms2272.
PMID: 23232391 [PubMed - in process]

2012年12月18日火曜日

二次共生藻の核ゲノム

二次共生藻類とは一次共生により成立した真核藻類(緑藻、紅藻、灰色藻)が更に別の真核生物の細胞内に共生して成立した藻類のことです。二次共生藻類の内の2グループ、クリプト藻とクロララクニオン藻は二次共生の際に細胞内共生した藻類の核nucleomorphが1Mb以下と非常に小さいながらも残っています。

Algal genomes reveal evolutionary mosaicism and the fate of nucleomorphs
Curtis BA, Tanifuji G, Burki F, Gruber A, Irimia M, Maruyama S, Arias MC, Ball SG, Gile GH, Hirakawa Y, Hopkins JF, Kuo A, Rensing SA, Schmutz J, Symeonidi A, Elias M, Eveleigh RJ, Herman EK, Klute MJ, Nakayama T, Oborník M, Reyes-Prieto A, Armbrust EV, Aves SJ, Beiko RG, Coutinho P, Dacks JB, Durnford DG, Fast NM, Green BR, Grisdale CJ, Hempel F, Henrissat B, Höppner MP, Ishida K, Kim E, Kořený L, Kroth PG, Liu Y, Malik SB, Maier UG, McRose D, Mock T, Neilson JA, Onodera NT, Poole AM, Pritham EJ, Richards TA, Rocap G, Roy SW, Sarai C, Schaack S, Shirato S, Slamovits CH, Spencer DF, Suzuki S, Worden AZ, Zauner S, Barry K, Bell C, Bharti AK, Crow JA, Grimwood J, Kramer R, Lindquist E, Lucas S, Salamov A, McFadden GI, Lane CE, Keeling PJ, Gray MW, Grigoriev IV, Archibald JM.
Nature. 2012 Dec 6;492(7427):59-65. doi: 10.1038/nature11681. Epub 2012 Nov 28.
PMID: 23201678 [PubMed - in process]

この論文では、クリプト藻のGuillardia thetaとクロララクニオン藻のBigelowiella natansの各ゲノムを報告しています。細胞内輸送システムは非常に複雑で、核由来、nucleomorph由来、の両方の遺伝子が混ざり合ってミトコンドリア、細胞質、色素体、共生藻の細胞質への輸送をコントロールしています。また、ミトコンドリアから核への遺伝子移行はまだ起こっていますが、色素体から核、nucleomorphから核への遺伝子移行は起こっておらず、これがまだnucleomorphが残っていることの説明になりそうです。

2012年12月17日月曜日

ヒタキの種分化をゲノムレベルで解析

遂に種分化をゲノムレベルで解析できる時代が来たようです。

以下の論文では、2種のヒタキ類collared flycatcher Ficedula albicollisとpied flycatcher
Ficedula hypoleucaのゲノムを読んで、種分化の過程を考察しています。

The genomic landscape of species divergence in Ficedula flycatchers
Ellegren H, Smeds L, Burri R, Olason PI, Backström N, Kawakami T, Künstner A, Mäkinen H, Nadachowska-Brzyska K, Qvarnström A, Uebbing S, Wolf JB.
Nature. 2012 Nov 29;491(7426):756-60. doi: 10.1038/nature11584. Epub 2012 Oct 24.
PMID: 23103876 [PubMed - in process]

2012年12月10日月曜日

レトロウイルスの復活

Resurrection of endogenous retroviruses in antibody-deficient mice
Young GR, Eksmond U, Salcedo R, Alexopoulou L, Stoye JP, Kassiotis G.
Nature. 2012 Nov 29;491(7426):774-8. doi: 10.1038/nature11599. Epub 2012 Oct 24.
PMID: 23103862 [PubMed - in process]

マウスの系統C57BL/6 (B6)のゲノムには複製可能な内在性murine leukaemia viruses (MLVs)は存在しない。しかし、抗体産生に欠陥のあるマウスでは、組換えにより偶然複製可能なMLVが出現することが明らかになった。更にはこのMLVはマウスにリンパ腫も引き起こす。このMLVの組換えによる活性化は、腸内細菌を減らしたり無くしたりすることで抑制できる。つまり、腸内細菌とマウスとの相互作用が刺激となって、細胞内で壊れたMLV同士の組み換えが誘発され、結果として癌を引き起こすという関係が示唆されている。

ちなみに、
MLVはガンマレトロウイルスに属しており、ガンマレトロウイルスが内在化したものはendogenous retrovirus 1 (ERV1)と呼ばれています。

2012年12月7日金曜日

大麦小麦

パンコムギ(Triticum aestivum)とオオムギ(Hordeum vulgare)のゲノムがNatureに報告されています。コムギオオムギともにゲノムサイズが大きく、重要な作物でありながらゲノム解析が遅れていました。オオムギのゲノムサイズは半数体あたり5.1GBだそうです。オオムギのゲノムの8割はなんらかの反復配列で構成されています。その3/4はLTRレトロトランスポゾンとのこと。オオムギは2倍体ですが、コムギは過去の交雑により似た染色体が6本ずつ存在する疑似6倍体で合計サイズはなんと17GB。やはりゲノムの8割程度が反復配列だそうです。

Analysis of the bread wheat genome using whole-genome shotgun sequencing
Brenchley R, Spannagl M, Pfeifer M, Barker GL, D'Amore R, Allen AM, McKenzie N, Kramer M, Kerhornou A, Bolser D, Kay S, Waite D, Trick M, Bancroft I, Gu Y, Huo N, Luo MC, Sehgal S, Gill B, Kianian S, Anderson O, Kersey P, Dvorak J, McCombie WR, Hall A, Mayer KF, Edwards KJ, Bevan MW, Hall N.
Nature. 2012 Nov 29;491(7426):705-10. doi: 10.1038/nature11650.
PMID: 23192148 [PubMed - in process]


A physical, genetic and functional sequence assembly of the barley genome
International Barley Genome Sequencing Consortium, Mayer KF, Waugh R, Brown JW, Schulman A, Langridge P, Platzer M, Fincher GB, Muehlbauer GJ, Sato K, Close TJ, Wise RP, Stein N.
Nature. 2012 Nov 29;491(7426):711-6. doi: 10.1038/nature11543. Epub 2012 Oct 17.
PMID: 23075845 [PubMed - in process]

2012年12月5日水曜日

CpG decayによる転写因子結合配列の形成

CpGはシトシンメチル化を受けている事が多いため、CからTへの置換を起こしやすいことが知られています。これはCpG decayと呼ばれ、ヒトでは最も多い塩基置換です。この論文の著者らは以前AluにCpG decayが起こる事でp53結合配列ができる事を報告しています.以下の論文では、Oct4、NANOG、c-Mycが結合するプロモーター領域では、CpG decayにより結合配列が作られる場合が他の置換に比べてはるかに多い事を示しています。

CpG deamination creates transcription factor-binding sites with high efficiency.
Zemojtel T, Kielbasa SM, Arndt PF, Behrens S, Bourque G, Vingron M.
Genome Biol Evol. 2011;3:1304-11. Epub 2011 Oct 19.
PMID: 22016335 [PubMed - indexed for MEDLINE] Free PMC Article

2012年12月4日火曜日

論文のインパクトと投稿過程

生物学系の923の雑誌で投稿、掲載と論文のインパクトの関係を調べた研究がScienceに掲載されました。これによると、75%の論文は最初に投稿された雑誌に掲載されている一方で、インパクトの高いジャーナルに出版される論文は他の雑誌に最初に投稿された論文が比較的多いことがわかりました。また、最初に投稿した雑誌と違う雑誌に再投稿された論文は、最初に投稿した雑誌に掲載された論文に比べてより引用回数が多い傾向があり、異なる雑誌コミュニティー(?)に再投稿された論文は逆に引用数が少ない傾向があったそうです。

査読にしっかり対応している論文は質が高くなる事を示しているようです。

Flows of Research Manuscripts Among Scientific Journals Reveal Hidden Submission Patterns.
Calcagno V, Demoinet E, Gollner K, Guidi L, Ruths D, de Mazancourt C.
Science. 2012 Nov 23;338(6110):1065-9. doi: 10.1126/science.1227833. Epub 2012 Oct 11.
PMID: 23065906 [PubMed - in process]

2012年12月3日月曜日

Mendeley

5年以上にわたってiPapersを愛用してきたのですが、ウェブ検索が壊れてしまったのを機に、別の文献管理ソフトを試してみる事にしました.少しウェブサーチをして見つけて来たのが以下のMendeleyです。

Mendeley

インストールは簡単.ダウンロードしてドラッグアンドドロップでApplication folderに移動。以上。

まず、これまで使っていたiPapersに入れてあった論文を取り込みました。EndNoteなどと違い専用の取り込み手段はiPapers用には用意されていないようだったので、iPapers/iPapers paper/PubMedフォルダ内のファイルを全選択して取り込んでみました。1663件。

まず、昔の論文はうまく情報を拾えないようです。特にスキャンしただけの古い論文(1980年代のNucleic Acids Resなど)は取り込めていません。Journal of Bacteriology, Journal of Virology, Molecular and Cellular Biologyなどは情報が自動では取り込めず、PubMed IDを個別に入力して情報を取ってくる必要があります。