2012年2月29日水曜日

転移因子の国際会議

Asilomar Conference Groundで開かれた3rd International Conference/Workshop Genomic Impact of Eukaryotic Transposable Elementsが無事終わりました。とてもハードでしたが、私にとっても大変有意義な学会でした。講演内容はPersonal Communication扱いなのでここには書けませんのであしからず。

ところで、
来年までに3つの転移因子についての国際会議が開かれる事が講演の中で紹介されました。

2nd International Congress on Transposable Genetic Elements 2012/04/21(土)-04/24(火) Saint-Malo, France

FUJIHARA SEMINAR 2012 A new horizon of retroposon research 2012/07/31(火)-08/03(金) 京都

FASEB Summer Research Conferance "Mobile DNA in Mammalian Genomes" 2013/06/09(日)-06/14(金) Big Sky, Montana

2012年2月24日金曜日

3rd International Conference/Workshop Genomic Impact of Eukaryotic Transposable Elements

今日から来週の火曜日までMonterey半島の先Pacific GroveのAsilomar Conference Groundで学会です。

3rd International Conference/Workshop
Genomic Impact of Eukaryotic Transposable Elements


今回はポスター発表あり、共同研究の打ち合わせあり、お手伝いありと大忙しの予感。しかも口頭発表のスケジュールは朝から晩までびっしりと詰まっています。最終日に時間が取れたら、昨年出遅れたMonarch butterflyの見物に行ってきたいと思っています。
ということで、更新は学会後までお休みします。

2012年2月23日木曜日

Genome Biology and Evolution

Molecular Biology and Evolutionの姉妹誌Genome Biology and Evolutionのインパクトファクターが公開されています。2.674。初回にしては悪くない数字に見えます。ただ、この数字だと今後下がっていく可能性が高いようにも見えますね。

Genome Biology and Evolution

去年掲載された論文のリストがアラートで来ていたので見渡してみたのですが、割と転移因子の論文が載っている印象です。転移因子の発見の論文はMBEからGBEへ移行していく流れなのでしょう。私もMBEから排除されないように質を高める努力をしていかないといけません。

2012年2月22日水曜日

Asilomar Conference on Recombinant DNA

今週末からGIRIの主催で開催される学会"3rd International Conference/Workshop Genomic Impact of Eukaryotic Transposable Elements"の会場Asilomar Conference Groundは1975年にAsilomar Conference on Recombinant DNA(アシロマ会議)が開催された場所でもあります。

Wikipediaの記事によると、
発端は組み換え技術を開発したポール・バーグが腫瘍学者のロバート・ポラックにその危険性を指摘されたことに始まる。最初は反発したバーグだったがポラックに説得され、米科学雑誌サイエンスにジェームズ・ワトソンらなどと連名で遺伝子組み換えのガイドラインに関する国際会議を行うことを呼びかける。この会議はアシロマの国際会議場で開催された。
会議は紛糾したが、シドニー・ブレナーによって提案された「生物学的封じ込め」によって合意をみる。また各国はこの会議に基づいて「物理学的封じ込め」などのガイドライン制定を行った。日本では「組換えDNA実験指針」が取り決められた。

我々の世代の生物学者にとっては、研究を始めた時点で当然だった遺伝子組み換え実験の規制、指針が始まったのがこのアシロマ会議ということです。この会議は科学者自身の手によって研究の方向性を決めた点で、近代生物学の大きな転換点だったのだと思います。もしこの会議が開かれなかったらどうなっていたのでしょうか?この会議の前には、遺伝子組み換え実験の一時停止の呼びかけがなされています。今、インフルエンザウイルスの人工合成の研究が一時停止されています。この問題の解決も科学者が主導して解決していけるよう期待しています。

2012年2月21日火曜日

Renato Dulbecco

ノーベル医学生理学賞の受賞者Renato Dulbeccoが2月19日に97歳で亡くなりました。彼はウイルス由来の遺伝子が細胞のゲノムに取り込まれ、これが癌化の原因になることを明らかにした功績で、教え子でもある Howard Temin、David Baltimoreと共に1975年にノーベル賞を受賞しました。最期は勤め先だったSalk Institute for Biological StudiesのあるサンディエゴのLa Jollaの自宅で亡くなったそうです。
Howard TeminとDavid Baltimoreはそれぞれ独立に逆転写酵素を発見した功績で受賞しています。

2012年2月20日月曜日

動物の胚か原生生物か?

動物の初期胚の化石だと考えられてきた化石の正体は単細胞生物だという論文が昨年末にScienceに載りました。門外漢なので化石の解析の話はよくわかりませんが、動物の起源にも関わってくる話なので興味深いです。これが決定打なのかそうでないのか、どちらなのでしょう?

Fossilized nuclei and germination structures identify Ediacaran "animal embryos" as encysting protists.
Huldtgren T, Cunningham JA, Yin C, Stampanoni M, Marone F, Donoghue PC, Bengtson S.
Science. 2011 Dec 23;334(6063):1696-9.

2012年2月19日日曜日

100kbを転移させるトランスポゾン

トランスポゾンを遺伝子導入のベクターとして利用する研究は昔から進められてきており、Sleeping Beauty、Tol2、piggyBac、Mos1などが実用化されています。このような系では、トランスポゾンの両末端の配列だけを残し、内側に自分の入れたい遺伝子を挿入したものと、別に発現させた転移酵素のタンパク質あるいは発現ベクターに組み込んだ転移酵素を同時に導入することでゲノム中に転移させる方法が取られています。しかし、転移酵素は自身を転移させるように最適化されてきているので、非常に長い配列を内部に組み込むと転移効率は低下します。
以下の論文では、昆虫由来のpiggyBacを用いて、マウスのES細胞のゲノム中に100kbのDNAを転移させることに成功したと報告しています。

Mobilization of giant piggyBac transposons in the mouse genome
Li MA, Turner DJ, Ning Z, Yusa K, Liang Q, Eckert S, Rad L, Fitzgerald TW, Craig NL, Bradley A.
Nucleic Acids Res. 2011 Dec;39(22):e148. Epub 2011 Sep 24.

2012年2月18日土曜日

L1の転移が個性を生む?

Scientific Americanの3月号に転移因子が脳に与える影響についての記事が載っています。著者の一人、Moutriとは2009年のコロラドでの学会で少しだけ話をしたことがあります。

Jumping Genes in the Brain Ensure That Even Identical Twins Are Different

転移因子は生殖細胞系列で転移しないと次世代にコピーを残せません。実際に生殖細胞系列でより多く転移が観察されるため、体細胞での転移は軽視されてきました。しかし、最近の研究では、ヒトの代表的な転移因子のL1とAluが体細胞でもかなりの量転移していることが明らかになってきました。中でも脳の海馬で多く転移します。海馬は記憶を司る脳の領域で、生まれた後もかなりの間神経細胞が分裂し、回路を形成することがわかっています。海馬の細胞の分裂は、運動をすると活発になります。実際にマウスにホイールを回らせると、海馬での転移の量が増加したそうです。新しいことを経験したり挑戦したりすると海馬が活性化されることから、このような体験は海馬でのL1の転移を増やす影響がありそうです。

転移は病気の原因にもなっています。MeCP2の変異は脳の発達不全の一種Rett症候群の原因になります。マウスとヒトでこのMeCP2の変異個体を調べると、神経細胞でのL1の転移量が増加していることがわかりました。つまり、L1の転移が脳で増加することで脳の発達不全が引き起こされる可能性が出てきました。同様のことが統合失調症や自閉症など他の精神発達障害でも起こっている可能性があります。

良い結果にしろ悪い結果にしろ転移が脳の発達に影響を与えていることは確かなようです。生まれたときには遺伝的に全く同一な一卵性双生児が成長につれて性格も異なっていくことは良く知られた事実です。しかし、その違いが、環境因子によるという考えは修正を迫られるかもしれません。もしかしたら、L1やAluの転移がその違いを生み出しているのかもしれないのですから...

2012年2月17日金曜日

イントロンの喪失と逆転写酵素

イントロンは進化の過程で新しくできたり失われたりすることが知られています。当然そのメカニズムに関心が持たれるわけですが、未だに明瞭な機構はわかっていません。この論文では、Evolutionary Reconstruction by Expectation Maximizationという手法を用いて、系統樹の各枝におけるイントロンの獲得喪失を予測し、逆転写酵素の活性との相関を解析しています。これによるとイントロンの獲得には逆転写酵素はほとんど関与しておらず、喪失については強く関与しているということが示唆されたそうです。

逆転写酵素が喪失に関与するのは機能から容易に想像つきますから、妥当な話だと思います。しかし、もともと獲得に逆転写酵素が関わるというのは構造からして考えにくいだろう、というのがAbstractを読んだ感想です。

論文を取り寄せてまで読みたいと思うような論文ではないですね。手元にあったら読むのでしょうが...

The role of reverse transcriptase in intron gain and loss mechanisms.
Cohen NE, Shen R, Carmel L.
Mol Biol Evol. 2012 Jan;29(1):179-86. Epub 2011 Jul 29.

2012年2月16日木曜日

ブータンシボリアゲハ

ブータンの東部で昨年8月、日本蝶類学会の調査隊によって78年ぶりに確認された幻の大蝶、ブータンシボリアゲハの標本が17日から24日まで一週間、東京・本郷の東京大学総合研究博物館本館1階で初めて一般公開されます。

学名はBhutanitis ludlowi、再発見を受けてブータンの国蝶に指定されたそうです。ちなみに日本の国蝶はオオムラサキです。

模様が本当に絞みたいですね。総合研究博物館は理学部2号館にいたころによく行きました。

幻のブータンシボリアゲハ初公開 17日から東大博物館
東京大学総合研究博物館

2012年2月15日水曜日

Franz Nopcsa von Felső-Szilvás

Scientific American 2011年10月号の記事より。「The dinosaur baron of Transylvania」というタイトルで古生物学者のFranz Nopcsa von Felső-Szilvásが紹介されていました。

Scientific American October 2011 Issue

記事とWikipediaによると、
彼は当時オーストリア・ハンガリー帝国の一部だったトランシルバニアの領主で古生物学者でした。貴族の地位を活かしてヨーロッパ中を回ることができた彼は膨大な恐竜化石のコレクションを獲得し、多くの研究論文を発表しています。
彼の功績の1つが「恐竜も島嶼では小型化(島嶼化)する」ことの発見です。中生代末期のトランシルバニアはテチス海に浮かぶ島の1つでした。そのため、他地域で産する近縁な恐竜に比べて極端に小型化した恐竜が生息していました。また、化石から死亡年齢を推定する手法を開発したり、鳥類は恐竜から派生したと考えていたりと古生物学に多大な貢献をしました。

Wikipediaのページへのリンクを貼っておきます。
Franz Nopcsa von Felső-Szilvás

2012年2月14日火曜日

ジュラ紀のカネタタキ

ジュラ紀のキリギリスの仲間の化石の翅の構造を現代の虫と比較することでかつての音色を再現することに成功したそうです。下のリンクからは音も聞くことが出来ます。

ジュラ紀のキリギリスの音色復元 化石に羽、構造分析

原著論文は以下。
Wing stridulation in a Jurassic katydid (Insecta, Orthoptera) produced low-pitched musical calls to attract females

2012年2月13日月曜日

トカゲのSPIN

論文メモ。

Rampant horizontal transfer of SPIN transposons in squamate reptiles.
Gilbert C, Hernandez SS, Flores-Benabib J, Smith EN, Feschotte C.
Mol Biol Evol. 2012 Feb;29(2):503-15. Epub 2011 Jul 18.

以前PNASに出たSpace Invader(SPIN)を爬虫類で解析した論文。SPINは有鱗目(ヘビ、トカゲ、ミミズトカゲ)では幅広く分布するが、カメ目とワニ目では見つからなかった。有鱗目の爬虫類ではSPINは互いに良く似ており、種間の分岐年代を考えると、水平伝播により広まったと考えられる。更に北米大陸、南米大陸、アフリカ大陸の3大陸でそれぞれ独立に水平伝播が起こったと考えられる。

最近またMBEで論文が溜まっていますね。ずいぶん前にアブストラクトを読んだ論文ですが最近本に載りました。

2012年2月12日日曜日

秋入学の是非

東京大学の同窓会のメールでも送られてきていましたし、ニュースでもたびたび話題になっている、東大が秋入学を導入することを検討しているという話題についてなかなか良い解説がNHKのサイトに載っていました。(以下)

時論公論 「東京大学秋入学実施へ」

学年の始まりが何月であろうと、それ自体にはあまり意味はありませんし、優劣もありません。しかし、現在のように国際化が進んでくると世界の多数派に合わせざるを得ないことも多くあります。例えば英語です。英語は決して他よりも優れた言語ではありませんが、科学業界では英語で論文を書かないと今や認められません。世界中では学年が秋に始まるところが多いのですから、留学生を獲得し、あるいは留学生を送り出すのには、学年が秋に始まる方が有利なのは言を待ちません。

課題となるのは、高校までの学年との相違、そして日本では一般的な一斉雇用、一斉入社システムとの相性でしょう。高校卒業から大学入学までの半年、あるいは大学卒業から入社までのギャップを海外旅行や、ボランティアに使って欲しいというような話もでていますが、馬鹿らしい話です。何をするかは大学生自身が決めればいい話でしょう。制度として強制する必要があるとは思えません。

実現までは時間がかかりますが、おそらく最終的には秋入学が定着していくのではないかと予想します。大学での普及が進むとやがて高校や義務教育もその方向に向かっていくことでしょう。

2012年2月11日土曜日

Endless Forms Most Beautiful: The New Science of Evo Devo

アメリカに来て2年と3ヶ月にして初めて英語の本を読了しました。もちろん新聞や雑誌はよく読んでいるのですが、最初から最後まで通して本を読むというのは時間があまり取れずこれまで来てしまいました。が遂に、Audible.comで読み上げ版(オーディオブック)を購入し、実物の本を見ながら聴いて、ようやく読了にこぎ着けました。

記念すべき1冊目は、Sean B. CarrollのEndless Forms Most Beautiful: The New Science of Evo Devo。タイトルはCharles Darwinの「The Origin of Species」の一節からの引用。サブタイトルの通りEvo Devoが紹介されています。前半は遺伝学や発生学の古典的な実験や知識の解説、後半でEvo Devoの最近の進展が紹介されています。著者のSean Carrollは昆虫の紋様の大家。私の所属した研究室も昆虫の紋様を研究していましたから、大学院生時代から名前は知っていました。この本で繰り返し強調されているのは、進化は遺伝子調節領域の変化で起こるというテーマです。遺伝子の機能自体はおそらく多くの生物で普遍的であり、その発現する領域や時期が変化することで、生物の形態や性質が大きく変化しうるというのは最近の発生学で明らかになってきたことです。

内容はEvo Devoの研究者や学生よりもむしろ分野外の生物学者や学生に向けた、啓蒙書、教科書という印象が強い。私は分野外の研究者ですので特に、古典的な研究の意味づけについてとても勉強になりました。分子生物学が発展する前は、近縁な生物以外では遺伝子は全く別のもので似ても似つかないはずだと考えられていたこと。ヒトの遺伝子の数が昆虫とほとんど変わらないことがすごい驚きだったこと。など、今となっては想像もできないようなかつての"常識"に気づくことができたり。私には、''hopeful monster"という概念がとても印象的でした(昔授業で習ったはずでは?という気もしますが...)。

ただ、著者の、大進化(種の誕生)は小進化(種内の多型の頻度変化)の積み重ねで起こるという主張には私は懐疑的です。というより、淘汰圧により全てが説明できるという考え方(自然選択万能論)に懐疑的です。我々の最近発表した論文にもありますが、私は遺伝的浮動が大進化には重要であると考えています。

2012年2月10日金曜日

黄昏のキタオポッサム

カリフォルニアに越してきて2年3ヶ月、初めて生きたキタオポッサムを見ました。日暮れ後に近所を散歩していたら、どなたかの家の庭でうずくまっていました。鈍い動きをしていたので、多分寝起きだったのでしょう。有袋類は有胎盤類よりも体温調節能が一般に低いので、冬にはあまり活発ではないのかもしれません。カナダまで生息域を広げているのですから、支障をきたすほど鈍くなっているわけではないのでしょうが。

南米産の哺乳類は、パナマ地峡がつながって北アメリカから哺乳類が進入してきたために多くが絶滅、衰退しました。キタオポッサムとココノオビアルマジロは数少ない例外で、目下アメリカ合衆国で勢力拡大中です。

2012年2月9日木曜日

オガサワラヒメミズナギドリ

かつてミッドウェー諸島で発見され、既に絶滅したと考えられていたミズナギドリが小笠原諸島で再発見されたそうです。この鳥の学名は「Puffinus bryani」、英名はBryan's shearwater。和名は「オガサワラヒメミズナギドリ」が提唱されています。

個体数減少の一端はクマネズミの増殖にあるそうです。小笠原の観光客が増えることでこれ以上外来種が持ち込まれないように適切な入島管理をしていく必要がありますね。自然保護には地元の人々の理解と協力が不可欠ですから、観光と自然保護の両立をどう保つかが課題です。

<ミズナギドリの一種>絶滅とされた海鳥、小笠原諸島で生息
「絶滅」の海鳥、小笠原で発見…数百羽生息か
希少海鳥、小笠原で再発見=米ミッドウェーは絶滅か—昨年新種と判明・森林総研など

2012年2月8日水曜日

始祖鳥は黒かった?

始祖鳥は黒かった…翼の化石から色素解析 米独チーム

始祖鳥の化石からメラノソームを見つけ、その構造を詳細に調べたところ、黒色の確率が95%だったそうです。

New evidence on the colour and nature of the isolated Archaeopteryx feather
Carney RM, Vinther J, Shawkey MD, D'Alba L, Ackermann J.
Nat Commun. 2012 Jan 24;3:637. doi: 10.1038/ncomms1642.

2012年2月7日火曜日

学術雑誌の編集者から引用の強要

学術誌の論文引用、編集者からの強要横行 米調査

 学術雑誌に論文を投稿する際、その雑誌に過去に掲載された論文を「引用リストに加えるように」と編集者から圧力を受けた——。こんな経験を相当数の米研究者がしていたとする調査を米アラバマ大のチームがまとめた。

この研究は社会科学系ですけれど、自然科学でもあるのかしら??

ヒトの遺伝子を切断するホーミングエンドヌクレアーゼ

ホーミングエンドヌクレアーゼとジンクフィンガーヌクレアーゼは制限酵素に続く標的特異的なエンドヌクレアーゼとして長らく研究が行われてきています.ジンクフィンガーヌクレアーゼは完全な人工合成酵素ですが、ホーミングエンドヌクレアーゼはそれ自身は自然界に存在する配列特異的な酵素です。これらを改良して有用な酵素を作り出そうという研究が進み、最近ではかなり有望な酵素も作られていますが、依然として様々な問題点が解決されていません。この論文では、そのような人工的な改良酵素ではなく、自然界から有望なホーミングエンドヌクレアーゼを見つけようという方向で進められた研究が報告されています。

Native homing endonucleases can target conserved genes in humans and in animal models OPEN ACCESS
Barzel A, Privman E, Peeri M, Naor A, Shachar E, Burstein D, Lazary R, Gophna U, Pupko T, Kupiec M.
Nucleic Acids Res. 2011 Aug;39(15):6646-59. Epub 2011 Apr 27.

2012年2月6日月曜日

仏像に使われた木材

先日スタンフォード大学で開催された公開講演会を聴きに行ってきました。定期的に仏教美術について講演者を招いて行われているもので、以前はチベット密教の美術の講演を聴きに行ったこともありました。今回は日本の仏像についての話でした。

Understanding Buddhist Art: Meaning and Materiality in Japanese Buddhist Sculpture

講演の主題は木造仏の素材の変遷についてでしたが、前半はその前史として仏教伝来後の金銅仏(飛鳥時代)と乾漆仏(白鳳時代)の紹介。休憩を挟んで後半が木造仏の話でした。
講演によると以前は日本の仏像の主流は、建築に使われるのと同じ檜(ヒノキ)であるという考えが通説でした。しかし、最近の鑑定技術の向上で、ごく微量の木片から素材を鑑定できるようになり、10世紀以前の仏像の主流はヒノキではないことが明らかになってきました。

最初に主流になったのが楠(クスノキ)で、これは神木として崇拝の対象になるような、力強い枝振り、強い芳香やそれによる虫除け効果などが特徴です。一方で枝が多いということは木の大きさに比して大きな木材を取りづらいということでもあります。

クスノキ(Cinnamomum camphora):双子葉植物綱 Magnoliopsidaクスノキ目 Laurales。

8世紀から10世紀にはクスノキに代わって榧(カヤ)が主流になりました。これはインドから、仏像の素材の本命は白檀(ビャクダン)であるという考え方が流入した結果、白檀に品質的に近いカヤが選ばれたという理由だそうです。白檀は熱帯性の植物で東アジアには自生しないため、輸入にも限度があり、大量に仏像を作るのには向きません。現地で産出する木材の内で性質が白檀に近いものとして、例えば中国では桜が、日本ではカヤが選ばれたということらしいです。カヤは材質が緻密で芳香を持つためビャクダンの代用になると考えられたようです。また、カヤは日本と台湾にしか自生しません。

ビャクダン(Santalum album):双子葉植物綱 Magnoliopsidaビャクダン目 Santalales
カヤ(Torreya nucifera):イチイ綱 Taxopsidaイチイ目 Taxales

11世紀からは仏像需要の高まりによる木材の不足、仏像の大型化、加工技術の革新などの理由により、建築木材としても利用されるヒノキの利用が一般的になり、現在まで続くことになります。

ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)は、マツ綱 Pinopsidaマツ目 Pinales。

上記4種の植物の内、クスノキとビャクダンは被子植物門Magnoliophyta、カヤとヒノキは裸子植物門 Gymnospermaeに属します。

材料の変遷は、思想的、物性的、生態的な様々な要素が重なり合って起こっていることがわかり、大変面白い話でした。もし当時の植生までわかるともっと面白くなるのでしょうが、文献からそれを予測するのは難しそうです。

2012年2月5日日曜日

ポテリジオ承認へ

協和発酵キリンが開発した成人T細胞白血病(ATL)の抗体医薬が承認の方向で審査が進んでいます。ATLはレトロウイルスの1種HTLV-1によって引き起こされる血液の癌です。この抗体は癌細胞の表面に表れる受容体に結合するそうです。

<成人T細胞白血病>薬事審部会が新薬「ポテリジオ」了承

米国に来て、製薬企業の人とも話す機会ができ、最近は医療にも興味を持ち始めました。聴き限りですが、抗体医薬はこれまでの低分子化合物ベースの医薬品では対象にならなかった標的を狙う医薬品が作成できる点で将来性が期待できるそうです。

2012年2月4日土曜日

軟体動物の系統樹(2)

軟体動物の系統樹に引き続き、単板類を含めた系統解析の結果が報告されました。雑誌が見られていないのでアブストラクトを見ただけですが、単板類の系統的位置は想定通りだったようです。

Resolving the evolutionary relationships of molluscs with phylogenomic tools
Smith SA, Wilson NG, Goetz FE, Feehery C, Andrade SC, Rouse GW, Giribet G, Dunn CW.
Nature. 2011 Oct 26;480(7377):364-7. doi: 10.1038/nature10526.

2012年2月3日金曜日

第69回 LSJ セミナー

1月27日に中内啓光氏のセミナーを聴いてきました。サバティカルでStanfordに来ているそうです。講演の内容は、ES細胞やiPS細胞を使って臓器を作るというものでした。臓器をin vitroで作るのは制御が大変だということで、ノックアウトにより臓器が形成できない動物の胚にES/iPS細胞を注入して外来細胞だけで臓器を形成するようにするという研究を紹介されていました。

ES/iPS細胞を胚に注入してキメラを作るというだけの手法だと、どの臓器、器官も胚由来の細胞とES/iPS由来の細胞とのキメラになってしまいます。ノックアウトを使うことで特定の臓器が100%ES/iPS由来の細胞にすることが可能となったそうです。また、マウスの胚にラットのES/iPSを、ラットの胚にマウスのES/iPSを導入する異種間キメラも成功しています。

最終的な目的は、上記の(1)ノックアウトにより100%ES/iPS由来の特定の組織、臓器を作る、(2)異種動物のキメラを作る、の2つの技術をヒトとブタに使うことで、ヒトの臓器をブタの体内で作って人体に移植するという治療方法の確立です。

講演もわかりやすく、諸処の写真は思わずうれしくなってしまうようなものでした。問題が解決されて、臓器移植を待っているたくさんの人が救われる日が近いことを実感できました。

ただ、技術的には実用がすぐそばまで来ていることが実感できましたが、むしろ課題は、倫理や生理的嫌悪感などの解決でしょう。講演を聴きながら小林泰三氏の「人獣細工」という小説を思い出しました。多臓器不全の女の子がブタの臓器を移植される手術を繰り返し受けるという話です。おそらくホラーに分類されるのですが(角川ホラー文庫で出版されています)、SFでもあり、彼の傑作の一つと言えるだろう、時代を先取りした小説です。

2012年2月2日木曜日

Repbase Reports Volume 12, Issue 1

Repbase Reportsの今年第1号が出版されました。今号では、グリーンアノール(Anolis carolinensis)、ナツメヤシ(Phoenix dactylifera)、トラフグ(Fugu rubripes)の配列を報告しています。

Repbase Reports Volume 12, Issue 1

Repbase Reportsは真核生物の反復配列を報告するオンラインの科学雑誌でGIRIが発行しています。配列、分類と簡単な特徴の報告だけですが、反復配列の一次情報源として利用されています。Repbase Reportsに掲載された配列は、反復配列データベースであるRepbase Updateに収録され、配布されています。学術研究者はユーザー登録することでどちらも無料で閲覧できます。

麻のゲノム

Cannabis sativaのゲノムが解読されました。Cannabis sativaの和名はアサ(麻)。繊維を取るために栽培される植物です。また、麻の実は七味唐辛子にも含まれています。しかし、同時にアサは麻薬の1種である大麻(マリファナ)を取るためにも栽培されています。同じく麻薬として規制される芥子(アヘンの原料になる)の種も同様に七味唐辛子の原料になっている点は少し興味深いですね。(尤も食用になる麻の実や芥子の種には麻薬として作用するような成分はほとんど含まれていません。)

The draft genome and transcriptome of Cannabis sativa.
van Bakel H, Stout JM, Cote AG, Tallon CM, Sharpe AG, Hughes TR, Page JE.
Genome Biol. 2011 Oct 20;12(10):R102. [Epub ahead of print]

2012年2月1日水曜日

Genomics ace quits Japan

昨年12月13日に紹介した中村祐輔氏がシカゴ大に異動するというニュースについてNatureに記事が載っていました。内容を読む限りでは、彼は日本の体制を批判してというよりも、実際の政策に関与できない無力さを感じて異動を決めたようです。

Genomics ace quits Japan

ただ、実際のところ政府機関の相談役のような立場だった人物が海外に異動するというのは、やはり体制に問題があるのだと思います。政治の専門家ではない人物の能力を活用するには上に立つ人物、つまり政治家の強い後押しが必要なはずなのですが。残念です。

ミツバチに寄生するハエ

蜂群崩壊症候群(Colony Collapse Disorder、CCD)はミツバチが巣から一匹もいなくなってしまう現象で、これまでに様々な要因が見つかってきました。ウイルス、ダニ、など。どうもこれらの複合要因で起こる現象らしいのですが、最近新たに寄生ハエが原因の候補として報告されました。という記事を隣町Palo Altoの新聞で読んで知ったのですが、ScienceのNewsに載っていたので紹介します。

Parasitic Fly Dooms Bees to Death by Maggots