2012年11月30日金曜日

逆向きAluは翻訳効率を低下させる

Inverted Alu dsRNA structures do not affect localization but can alter translation efficiency of human mRNAs independent of RNA editing
Capshew CR, Dusenbury KL, Hundley HA.
Nucleic Acids Res. 2012 Sep 1;40(17):8637-45. Epub 2012 Jun 25.
PMID: 22735697 [PubMed - in process] Free PMC Article

ヒトのSINEとして最も多く存在するAluのかなりの割合はmRNAの一部として転写される。そのため、逆向きのAluがmRNA上で二本鎖を形成する例はおそらく大量に存在すると考えられる。この論文は、このような逆向きAluが二本鎖を形成しているmRNAの翻訳効率は低下するが、それはイノシンの有無とは無関係であることを報告している。イノシンは二本鎖RNA中のアデニンをAdenosine deaminases acting on RNA (ADARs)が脱アミノ化する現象(RNA editing)によりできる。

2012年11月29日木曜日

バクテリオファージの転移酵素MuAの結晶構造

バクテリオファージMuのコードする転移酵素MuAとバクテリオファージのDNA、標的となるDNAの結合した状態での結晶構造が報告されています。結晶構造なので論文の詳細を見ないと詳しい事はわかりませんが、要約では、構造の知られている他の転移酵素との比較から、転移酵素に共通する特徴であるトランスに触媒する機構や標的DNAを曲げるなどの特徴は並行進化によるものであることが示唆されたとされています。

The Mu transpososome structure sheds light on DDE recombinase evolution
Montaño SP, Pigli YZ, Rice PA.
Nature. 2012 Nov 15;491(7424):413-7. doi: 10.1038/nature11602. Epub 2012 Nov 7.
PMID: 23135398 [PubMed - in process]

2012年11月28日水曜日

鱗翅目昆虫間でのMarinerの水平伝播

DNA配列の種間移動は水平伝播と呼ばれ、真核生物ではそのほとんどは転移因子の配列です。しかし転移因子の中でも種類によって水平伝播の頻度には大きな違いがあり、non-LTR retrotransposonでは報告そのものが非常に少ない状況です。実際古い報告例の多くは実際には水平伝播ではなく、パラログに相当する関係を誤解したものです。
この論文の著者のグループは以前non-LTR retrotransposonの一種CR1が、カイコBombyx moriとシジミチョウのMaculineaのそう古くない祖先同士で水平伝播したと報告しています。この論文では、同じ2種を解析し、DNA transposonのMarinerが同様に水平伝播している事を示しています。著者らの目的はDNA transposonがnon-LTR retrotransposonを水平伝播させるベクターとして働いているという仮説を証明する事なので、この論文はその第1歩ということになります。

Vertical Evolution and Horizontal Transfer of CR1 Non-LTR Retrotransposons and Tc1/mariner DNA Transposons in Lepidoptera Species
Sormacheva I, Smyshlyaev G, Mayorov V, Blinov A, Novikov A, Novikova O.
Mol Biol Evol. 2012 Dec;29(12):3685-702. doi: 10.1093/molbev/mss181. Epub 2012 Jul 23.
PMID: 22826456 [PubMed - in process]

2012年11月27日火曜日

鳥類の多様化

Natureに鳥類の多様化を時空間的に解析した論文が載っていました。

The global diversity of birds in space and time
Jetz W, Thomas GH, Joy JB, Hartmann K, Mooers AO.
Nature. 2012 Nov 15;491(7424):444-8. doi: 10.1038/nature11631. Epub 2012 Oct 31.
PMID: 23123857 [PubMed - in process]

約5000万年前から現在にかけて鳥類は多様化の度合いを増加させている。これは鳴禽類、水鳥、カモメ、キツツキなどのグループが多様化してきていることによる。過去においては様々な鳥類の系統で急速な多様化が見られる。地理的には緯度の差は重要ではなく、大陸によって異なった多様化の度合いを示す。

2012年11月26日月曜日

フタコブラクダのゲノム

ユーラシア大陸産のラクダの仲間、フタコブラクダのゲノムが報告されました。ラクダの仲間では、他に南米産のリャマのゲノムが読まれています。ラクダの仲間は、鯨偶蹄類の中では最も早くに分岐したと考えられるグループで、鯨偶蹄類はその後、ブタの仲間、クジラとカバの仲間、そして最後にウシの仲間が分岐したと考えられています。その分岐時期は5500−6000万年前と推測されました。速く進化している遺伝子には、代謝系の遺伝子が多く見られ、この種の乾燥や絶食への強い耐性との関係がありそうです。反復配列については、他の哺乳類と同様の傾向を示しています。

Genome sequences of wild and domestic bactrian camels
The Bactrian Camels Genome Sequencing and Analysis Consortium, Jirimutu, Wang Z, Ding G, Chen G, Sun Y, Sun Z, Zhang H, Wang L, Hasi S, Zhang Y, Li J, Shi Y, Xu Z, He C, Yu S, Li S, Zhang W, Batmunkh M, Ts B, Narenbatu, Unierhu, Bat-Ireedui S, Gao H, Baysgalan B, Li Q, Jia Z, Turigenbayila, Subudenggerile, Narenmanduhu, Wang Z, Wang J, Pan L, Chen Y, Ganerdene Y, Dabxilt, Erdemt, Altansha, Altansukh, Liu T, Cao M, Aruuntsever, Bayart, Hosblig, He F, Zha-Ti A, Zheng G, Qiu F, Sun Z, Zhao L, Zhao W, Liu B, Li C, Chen Y, Tang X, Guo C, Liu W, Ming L, Temuulen, Cui A, Li Y, Gao J, Li J, Wurentaodi, Niu S, Sun T, Zhai Z, Zhang M, Chen C, Baldan T, Bayaer T, Li Y, Meng H.
Nat Commun. 2012 Nov 13;3:1202. doi: 10.1038/ncomms2192.
PMID: 23149746 [PubMed - as supplied by publisher]

2012年11月20日火曜日

ブタゲノム

ブタのゲノムが解読されました。これによるとブタでは免疫系と嗅覚系で進化が早く、特に嗅覚受容体の数は知られている中で最多だそうです。この嗅覚受容体がトリュフを見つけるのに役立っているんですね。

Analyses of pig genomes provide insight into porcine demography and evolution

2012年11月19日月曜日

Aluの挿入によるテナガザルの系統解析

テナガザル類は小型類人猿とも呼ばれ、我々大型類人猿(ヒト、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン)の姉妹群にあたります。テナガザル類は600から1000万年前に急速に分化したため、系統関係が未だ曖昧なままでした。現在、テナガザル類は4属に分類されています。SymphalangusHylobatesNomascusHoolockです。以下の論文では、SINEの1種Aluの挿入を指標にした系統解析によって、Symphalangusが最も早くに分岐し、その次にHylobates、最後にNomascusHoolockが分岐した事が示されています。

An Alu-Based Phylogeny of Gibbons (Hylobatidae)
Meyer TJ, McLain AT, Oldenburg JM, Faulk C, Bourgeois MG, Conlin EM, Mootnick AR, de Jong PJ, Roos C, Carbone L, Batzer MA.
Mol Biol Evol. 2012 Nov;29(11):3441-50. doi: 10.1093/molbev/mss149. Epub 2012 Jun 7.
PMID: 22683814 [PubMed - in process]

2012年11月16日金曜日

ES細胞/iPS細胞から卵子

ES細胞/iPS細胞から精子を作る方法は既に報告されていると記憶していますが、今回卵子を作る事にも成功したそうです。

Offspring from Oocytes Derived from in Vitro Primordial Germ Cell–Like Cells in Mice
Hayashi K, Ogushi S, Kurimoto K, Shimamoto S, Ohta H, Saitou M.
Science. 2012 Oct 4. [Epub ahead of print]

マウスの雌由来のES細胞あるいはiPS細胞から始原生殖細胞を作り、雌の生殖器の体細胞と混ぜ合わせると、X染色体不活化、インプリントの消去、シストの形成が見られた。これをマウスの卵巣の位置に移植すると、卵子が形成された。この卵子を体外で成熟させ、体外受精して次世代を作る事に成功した。

2012年11月15日木曜日

Repbase Reports 12 (11)

Repbase Reportsの今年第11号が出版されました。今号では、真菌類のBlumeria graminisの転移因子および反復配列を報告しています。

Repbase Reports Volume 12, Issue 11

Repbase ReportsはGIRIが発行している、真核生物の反復配列を報告するオンラインの科学雑誌です。配列、分類と簡単な特徴の報告だけですが、反復配列の一次情報源として論文でも引用されています。Repbase Reportsに掲載された配列は、反復配列データベースであるRepbase Updateに収録され、配布されます。学術研究者はユーザー登録することでどちらも無料で閲覧できます。

2012年11月14日水曜日

寄生植物のゲノム

ハマウツボ科はキクに比較的近縁な双子葉植物で、ナンバンギセルなど全て寄生性の植物からなる分類群です。ハマウツボの仲間数種のゲノム解読から、寄生植物のゲノムは寄生でない近縁な植物に比べて、反復配列の割合が多い事がわかったそうです。

Next-generation sequencing reveals the impact of repetitive DNA across phylogenetically closely related genomes of orobanchaceae.
Piednoël M, Aberer AJ, Schneeweiss GM, Macas J, Novak P, Gundlach H, Temsch EM, Renner SS.
Mol Biol Evol. 2012 Nov;29(11):3601-11. doi: 10.1093/molbev/mss168. Epub 2012 Jun 21.
PMID: 22723303 [PubMed - in process]

2012年11月12日月曜日

Babesia microtiのゲノム

Babesia microtiのゲノム配列が、寄生性のApicomplexaとしては最小の核ゲノムとして報告されています。Apicomplexaはマラリア原虫(Plasmodium)、トキソプラズマ(Toxoplasma)、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)などの寄生性の単細胞生物を含む生物群です。

Sequencing of the smallest Apicomplexan genome from the human pathogen Babesia microti
Cornillot E, Hadj-Kaddour K, Dassouli A, Noel B, Ranwez V, Vacherie B, Augagneur Y, Brès V, Duclos A, Randazzo S, Carcy B, Debierre-Grockiego F, Delbecq S, Moubri-Ménage K, Shams-Eldin H, Usmani-Brown S, Bringaud F, Wincker P, Vivarès CP, Schwarz RT, Schetters TP, Krause PJ, Gorenflot A, Berry V, Barbe V, Ben Mamoun C.
Nucleic Acids Res. 2012 Oct 1;40(18):9102-9114. Epub 2012 Jul 24.
PMID: 22833609 [PubMed - as supplied by publisher] Free PMC Article

染色体は3本でゲノムサイズは6.5MB。Apicomplexaとしては例外的に、ミトコンドリアゲノムは環状だそうです。

2012年11月7日水曜日

肺魚のnon-LTR retrotransposon

陸上脊椎動物とシーラカンス、肺魚の3グループの系統関係についてはまだ明確な結論は出ていません。また肺魚はある種のサンショウウオと並んで最も巨大なゲノムを持つ脊椎動物であり、その点でも興味深い生物です。以下の論文では、ゲノムサイズに主題をおいて、オーストラリア産肺魚ゲノムの転移因子を解析しています。

Evolution of the Australian Lungfish (Neoceratodus forsteri) Genome: A Major Role for CR1 and L2 LINE Elements
Metcalfe CJ, Filée J, Germon I, Joss J, Casane D.
Mol Biol Evol. 2012 Nov;29(11):3529-39. doi: 10.1093/molbev/mss159. Epub 2012 Jun 24.
PMID: 22734051 [PubMed - in process]

ゲノムライブラリーを作って反復配列を解析したところ、ゲノムの4割程度が反復配列であろうと推測された。その多くはCR1とL2の2グループのnon-LTR retrotransposonであった。CR1は最近増幅されたと見られ、一方L2はもっと古くに増幅の時期があったことがわかった。著者らはゲノムの大部分は古くに転移した転移因子に由来すると考え、その増幅の時期が3億5千万年前から2億年前で、その後配列があまり除去されなかったことが肺魚のゲノムサイズが大きい理由であろうと考えている。

2012年11月6日火曜日

Repbase Reports 12 (10)

Repbase Reportsの今年第10号が出版されました。今号では、動物から、ニシツメガエルXenopus tropicalis、グリーンアノールAnolis carolinensis、ギボシムシSaccoglossus kowalevskii、イソギンチャクNematostella vectensis、真菌類からSerpula lacrymansMelampsora larici-populinaPuccinia graminis の転移因子および反復配列を報告しています。

また、哺乳類に広く保存された反復配列も多数報告しています。これらの多くはおそらく転移因子由来ですが、エンハンサー等として機能している可能性があります。

Repbase Reports Volume 12, Issue 10

Repbase ReportsはGIRIが発行している、真核生物の反復配列を報告するオンラインの科学雑誌です。配列、分類と簡単な特徴の報告だけですが、反復配列の一次情報源として論文でも引用されています。Repbase Reportsに掲載された配列は、反復配列データベースであるRepbase Updateに収録され、配布されます。学術研究者はユーザー登録することでどちらも無料で閲覧できます。

2012年11月5日月曜日

稲作の起源

栽培稲の起源については、japonicaとindicaの起源が独立ではないかという疑問を含めて、まだまだ未解明の部分が多くあります。最近Natureに掲載された論文によると、japonica種は中国南部珠江流域で野生の稲Oryza rufipogonが作物化されて生まれ、indica種は東南アジアから南アジアでjaponica種と野生の稲が交雑して誕生したとされています。
この論文では、446地域から採集した野生の稲Oryza rufipogonと1083系統の栽培稲の品種のゲノムを解析して55のselective sweepをみつけたことから、上記のような結論に至っています。

A map of rice genome variation reveals the origin of cultivated rice
Huang X, Kurata N, Wei X, Wang ZX, Wang A, Zhao Q, Zhao Y, Liu K, Lu H, Li W, Guo Y, Lu Y, Zhou C, Fan D, Weng Q, Zhu C, Huang T, Zhang L, Wang Y, Feng L, Furuumi H, Kubo T, Miyabayashi T, Yuan X, Xu Q, Dong G, Zhan Q, Li C, Fujiyama A, Toyoda A, Lu T, Feng Q, Qian Q, Li J, Han B.
Nature. 2012 Oct 25;490(7421):497-501. doi: 10.1038/nature11532. Epub 2012 Oct 3.
PMID: 23034647 [PubMed - in process]

ちなみに珠江の河口の両側が香港とマカオだそうです。