2015年3月20日金曜日

連鎖球菌がピロリ菌の増殖を抑制する?

研究室の論文紹介より。

ピロリ菌は胃がんの原因となることが知られている細菌である。胃は酸性が強く他の細菌は生息していないと考えられてきたが、口腔細菌のStreptococcus mitisや乳酸菌Lactobacillus fermentumが生息していることがわかってきた。著者らはStreptococcus mitisとの共培養(直接接触はしないが膜を介して小分子は移動する環境)によりピロリ菌が螺旋状から球菌状に変化し、増殖できなくなることを明らかにした。が、培養は弱酸性条件。条件や解析にいろいろと難があり信頼性は低いか。

Streptococcus mitis Induces Conversion of Helicobacter pylori to Coccoid Cells during Co-Culture In Vitro
Khosravi Y, Dieye Y, Loke MF, Goh KL, Vadivelu J.
PLoS One. 2014 Nov 11;9(11):e112214. doi: 10.1371/journal.pone.0112214.

2015年3月12日木曜日

原核生物の新規免疫システムBREX

研究室の論文紹介で紹介した論文のまとめ。

BREX is a novel phage resistance system widespread in microbial genomes.
Goldfarb T, Sberro H, Weinstock E, Cohen O, Doron S, Charpak-Amikam Y, Afik S, Ofir G, Sorek R.
EMBO J. 2015 Jan 13;34(2):169-83. doi: 10.15252/embj.201489455. Epub 2014 Dec 1.
PMID: 25452498 [PubMed - indexed for MEDLINE]

知られていたPglシステムに似た遺伝子クラスターを発見し、BREX(bacteriophage exclusion) systemと命名した。解析したBREX systemはATPase, alkaline phosphatase, Lon-like protease, DNA methyltransferaseとRNA結合タンパク質をコードする。炭疽菌(Bacillus cereus H3081.97)の系を枯草菌(Bacillus subtilis BEST7003)に導入し、各種のファージに対する耐性を調べたところ、以下のような結果が得られた。
・多くのファージには10の5乗程度の抑制効果が見られた。
・一部のファージには効果がない。
・プラスミドに対しても弱いながらも抑制効果(10倍程度)がある。
・ファージの侵入は妨げない
・ファージの侵入した細胞を自殺させる(abortive infection)システムではない。
・BREXが効く場合には、ファージの複製増殖は起こらない。
・ファージDNAの切断は起こらない。
・BREXは宿主ゲノムを特定の配列(この場合はTAGGAG)でメチル化するが、ファージゲノムはメチル化しない。

さらにバイオインフォマティクスの結果からは、
・調べられた原核生物の内10%程度に存在する。(種単位であって株単位ではない)
・遺伝子組成により6グループに分けられる。
・ある種のグループは特定の生物群にしか見られない。

面白いのは遺伝子組成で、
・Lon proteaseはtype 2, 3, 5, 6には存在しない。type 2, 3, 5, 6では代わりにhelicaseがある。
・DNA methyltransferaseはtype 4には存在しないが、type 4には代わりにphosphoadenylyl-sulfate(PAPS) reductaseがある。PAPS reductaseはDNAのバックボーンを修飾するdnd systemの構成遺伝子にも見られる。
などの多様性が見られる。多様性はCRISPR-Cas systemほどではないが、作用機序との相関は興味深い。

おそらくは宿主のゲノムDNAを修飾し、外来の非修飾のDNAを認識して攻撃するのだろうが、制限修飾系とは異なり、DNAの切断は起こらず、もっと後のプロセスが阻害されるらしい。