2013年1月21日月曜日

トカゲ類の白亜紀末大量絶滅

白亜紀末の大量絶滅では、恐竜を含む大型爬虫類が絶滅しました。一方でトカゲ類は絶滅しなかったわけですが、実際には大きな打撃を受けており、多くの系統が絶滅していたことがわかりました。

Mass extinction of lizards and snakes at the Cretaceous–Paleogene boundary
Longrich NR, Bhullar BA, Gauthier JA.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Dec 26;109(52):21396-401. doi: 10.1073/pnas.1211526110. Epub 2012 Dec 10.
PMID: 23236177 [PubMed - in process]

白亜紀末の大量絶滅により、トカゲとヘビの仲間は種レベルでは実に83%もが絶滅しており、形態の多様性も大きく減少しました。生き残ったものには小型で生息域の大きいものが多く見られました。また、トカゲ類の多様性は白亜紀末の大量絶滅後1000万年ほど回復しなかったそうです。

2013年1月18日金曜日

TcBusterとSPIN(ON)をヒト細胞で転移させる

トランスポゾンを使って有用な配列をゲノムに組み込む方法はいくつか実用化されています。また、トランスポゾンによって遺伝子を破壊したり、プロモーターを解析したりと言った事も行われています。これまでに実用化されているトランスポゾンとしては、Mariner/Tc1 superfamilyに属するSleeping Beauty、piggyBac superfamilyに属するpiggyBac、hAT superfamilyに属するTol2などがあります。以下の論文では別のhAT superfamilyの転移因子をヒト細胞中で転移させ、その特徴を解析しています。

A resurrected mammalian hAT transposable element and a closely related insect element are highly active in human cell culture
Li X, Ewis H, Hice RH, Malani N, Parker N, Zhou L, Feschotte C, Bushman FD, Atkinson PW, Craig NL.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Oct 22. [Epub ahead of print]
PMID: 23091042 [PubMed - as supplied by publisher] Free Article

hAT superfamilyに属する2種類のトランスポゾン、TcBusterとSPIN(ON)がヒト細胞で転移する事を確認した論文。SPINは哺乳類のいくつかの種で比較的最近転移していた事がわかっていたもので、その配列を基に再構成して転移可能にしている。どちらもトランスポゾンも転移酵素以外のタンパク質は転移に必須ではなく、今後のmutagenesisやゲノム工学に役立つ事が期待される。

さて、トランスポゾンを使ったmutagenesisやゲノム工学では、ゲノム中のどの位置、どういう配列に挿入されるかが問題となる。他に手法が確立されている3種類のトランスポゾンの内、Mariner/Tc1 superfamilyに属するSleeping BeautyはTA2塩基のtarget site duplication(TSD)を作り、piggyBac superfamilyに属するpiggyBacはTTAAの4塩基のTSDを作る事が知られている。Tol2もhAT superfamilyに属する。一般にhAT superfamilyに属するものは8塩基のTSDを作る。TcBusterとSPIN(ON)も8塩基のTSDを作り、その中央2塩基はTAである場合が非常に多い事が実験的に示された。従って、実用化されつつあるトランスポゾンは全て中央部がTAの配列を認識して挿入する事になる。これでは転移先に偏りがあるので、別の性質を持つトランスポゾンを実用化することもまだまだ大きな価値がありそうである。

2013年1月17日木曜日

Repbase Reports 12 (12)

ひと月ほど前になりますが、昨年の最後のRepbase Reportsが12/20に出版されました。今号では、真菌類のBlumeria graminis、黄熱病を媒介するネッタイシマカAedes aegypti、マガキCrassostrea gigasの転移因子および反復配列を報告しています。

Repbase Reports Volume 12, Issue 12

Repbase ReportsはGIRIが発行している、真核生物の反復配列を報告するオンラインの科学雑誌です。配列、分類と簡単な特徴の報告だけですが、反復配列の一次情報源として論文でも引用されています。Repbase Reportsに掲載された配列は、反復配列データベースであるRepbase Updateに収録され、配布されます。学術研究者はユーザー登録することでどちらも無料で閲覧できます。

2013年1月9日水曜日

データベースのサポート

新年明けましておめでとうございます。
今年のブログは問題提起から始めたいと思います。

今日の科学においてデータベースは必要不可欠なものとなっています。私も京都大学に在籍していた頃にKEGGの運営をそばから見ていましたし、現在はGIRIでRepbaseの維持運営に携わっています。世の中には無数のデータベースが存在していますが、長期に渡って維持されているものは決して多くありません。公表された直後から放置され、顧みられることが無いデータベースも少なくありません。

これには少なくとも2つの要因があると思います。一つは、データベースの構築の際には多くの情報が得られ、その後その研究者が研究を続けていく上で役立ちます。一方で、最初は膨大な情報が得られますが、その後追加されていく情報は当初に比べれば少なく、知的好奇心を原動力に仕事する研究者が、維持していくことに熱心になれないのも道理です。

もう一つの要因は以下の記事が示すように、研究者だけではなく、社会全体がデータベースの維持をあまり評価していないことです。昨年の9月5日付けのNatureのNews記事では、NIHからのデータベースのサポートが大幅に減額されたことを紹介し、その問題点を指摘しています。

Databases fight funding cuts

データベースにはそれぞれコンセプトがあります。例えばRepbaseは元来ヒトゲノム配列から反復配列を取り除くための配列情報集として始まった経歴もあり、多数の転移因子の配列を元に過去の配列を復元したコンセンサス配列を多く収集しています(収集といっても大多数は我々が解析、登録したものですが)。これは個々の反復配列を探す場合に、コンセンサス配列に対して相同性検索をかける方が、代表的な配列1つにかけるよりも感度が高いためです。また、階層構造化した分類システムを採用しています。最近では反復配列、転移因子のデータベースとしてGypsyDBやSINEBaseなどといったそれぞれの転移因子のグループに特化したデータベースや、生物種に特化したデータベースもありますが、網羅的なデータベースとしてはRepbaseは唯一無二のものです。一方でRepbaseにはない細かい分類やモチーフ配列の情報があるデータベースがあるのも事実です。このため、データを1つにまとめれば他のデータベースは要らないかというとそうではなく、それぞれのデータベースが個性を持って相補しあっていることが科学の発展のために重要です。

記事ではデータベースの維持はデータベースの設計構築とは別の組織、予算で運営するという提案をしています。しかし、コンセプトを維持していくためには、やはり開発したグループがデータベースを発展させていく環境を整備していくことがより重要であると私は考えます。コンセプトを失ったデータベースはただの情報のたまり場になり、有用性を失っていくのではないでしょうか?