2012年5月10日木曜日

bracovirusの起源

少し古い論文ですが、フォローしていなかったのに最近気づいたので...

寄生蜂は膜翅目昆虫の中で最も大きなグループで、宿主となる昆虫の幼虫や卵の中に自身の卵を産みつけます。一部のものは、その際に、一緒にウイルス粒子のようなものを産みつける事が知られています。このウイルス粒子のようなものは、polydnavirusと呼ばれていますが、実際にはウイルスの複製に関わるタンパク質は持っておらず、ウイルスとは無関係のタンパク質をコードしています。幼虫の体内で発現したタンパク質は免疫を抑制して寄生蜂の幼虫が成長するのを助ける役割を持ちます。polydnavirusはbracovirusとichnovirusの2つに分類され、bracovirusはコマユバチ類(braconid wasps)が、ichnovirusはヒメバチ類(ichneumonid wasps)が持っています。これらのグループは膨大な種数を誇る、非常に繁栄している昆虫です。

さて、このウイルス様粒子の起源については、ウイルスが宿主の機構に取り込まれたものだと考えられてきましたが、粒子自体にウイルス由来の遺伝子が見つからない事からその起源はわかっていませんでした。以下の論文では、少なくともbracovirusの起源はnudivirusであり、約1億年前に寄生蜂のゲノムに取り込まれた事が示されました。nudivirusは節足動物に感染する二本鎖DNAウイルスで、同じく節足動物に感染するbaculovirusに近縁な事が知られています。

Polydnaviruses of braconid wasps derive from an ancestral nudivirus.
Bézier A, Annaheim M, Herbinière J, Wetterwald C, Gyapay G, Bernard-Samain S, Wincker P, Roditi I, Heller M, Belghazi M, Pfister-Wilhem R, Periquet G, Dupuy C, Huguet E, Volkoff AN, Lanzrein B, Drezen JM.
Science. 2009 Feb 13;323(5916):926-30.
PMID: 19213916 [PubMed - indexed for MEDLINE] Free Article

著者らはウイルス粒子が作られる時期の寄生蜂の卵巣のESTを3種の寄生蜂(Chelonus inanitus, Cotesia congregata, Hyposoter didymator)で作成し、どのようなウイルス様遺伝子が発現しているのかを調べました。5000配列ずつ調べたところ、前2者で発現している一部の遺伝子はbaculovirusやnudivirusの遺伝子と似ている事がわかりました。中には、RNA polymerase、DNA packagingやenvelopeのタンパク質をコードしているものも見つかりました。これらの遺伝子は蜂ゲノム中にコードされており、またタンパク質は確かにbracovirusの粒子に含まれていました。baculovirusとnudivirusに共通のものの他に、nudivirusだけがコードする遺伝子に近縁なものが見つかった事から、bracovirusはnudivirus由来であることもわかりました。よく保存された遺伝子はbracovirusを持つ寄生蜂全ての科でクローニングする事ができました。

少し前の知見は、本サイトにまとめてあります。
62. 自然界のウイルスベクター:polydnavirus

0 件のコメント:

コメントを投稿