2012年2月18日土曜日

L1の転移が個性を生む?

Scientific Americanの3月号に転移因子が脳に与える影響についての記事が載っています。著者の一人、Moutriとは2009年のコロラドでの学会で少しだけ話をしたことがあります。

Jumping Genes in the Brain Ensure That Even Identical Twins Are Different

転移因子は生殖細胞系列で転移しないと次世代にコピーを残せません。実際に生殖細胞系列でより多く転移が観察されるため、体細胞での転移は軽視されてきました。しかし、最近の研究では、ヒトの代表的な転移因子のL1とAluが体細胞でもかなりの量転移していることが明らかになってきました。中でも脳の海馬で多く転移します。海馬は記憶を司る脳の領域で、生まれた後もかなりの間神経細胞が分裂し、回路を形成することがわかっています。海馬の細胞の分裂は、運動をすると活発になります。実際にマウスにホイールを回らせると、海馬での転移の量が増加したそうです。新しいことを経験したり挑戦したりすると海馬が活性化されることから、このような体験は海馬でのL1の転移を増やす影響がありそうです。

転移は病気の原因にもなっています。MeCP2の変異は脳の発達不全の一種Rett症候群の原因になります。マウスとヒトでこのMeCP2の変異個体を調べると、神経細胞でのL1の転移量が増加していることがわかりました。つまり、L1の転移が脳で増加することで脳の発達不全が引き起こされる可能性が出てきました。同様のことが統合失調症や自閉症など他の精神発達障害でも起こっている可能性があります。

良い結果にしろ悪い結果にしろ転移が脳の発達に影響を与えていることは確かなようです。生まれたときには遺伝的に全く同一な一卵性双生児が成長につれて性格も異なっていくことは良く知られた事実です。しかし、その違いが、環境因子によるという考えは修正を迫られるかもしれません。もしかしたら、L1やAluの転移がその違いを生み出しているのかもしれないのですから...

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