先日スタンフォード大学で開催された公開講演会を聴きに行ってきました。定期的に仏教美術について講演者を招いて行われているもので、以前はチベット密教の美術の講演を聴きに行ったこともありました。今回は日本の仏像についての話でした。
Understanding Buddhist Art: Meaning and Materiality in Japanese Buddhist Sculpture
講演の主題は木造仏の素材の変遷についてでしたが、前半はその前史として仏教伝来後の金銅仏(飛鳥時代)と乾漆仏(白鳳時代)の紹介。休憩を挟んで後半が木造仏の話でした。
講演によると以前は日本の仏像の主流は、建築に使われるのと同じ檜(ヒノキ)であるという考えが通説でした。しかし、最近の鑑定技術の向上で、ごく微量の木片から素材を鑑定できるようになり、10世紀以前の仏像の主流はヒノキではないことが明らかになってきました。
最初に主流になったのが楠(クスノキ)で、これは神木として崇拝の対象になるような、力強い枝振り、強い芳香やそれによる虫除け効果などが特徴です。一方で枝が多いということは木の大きさに比して大きな木材を取りづらいということでもあります。
クスノキ(Cinnamomum camphora):双子葉植物綱 Magnoliopsidaクスノキ目 Laurales。
8世紀から10世紀にはクスノキに代わって榧(カヤ)が主流になりました。これはインドから、仏像の素材の本命は白檀(ビャクダン)であるという考え方が流入した結果、白檀に品質的に近いカヤが選ばれたという理由だそうです。白檀は熱帯性の植物で東アジアには自生しないため、輸入にも限度があり、大量に仏像を作るのには向きません。現地で産出する木材の内で性質が白檀に近いものとして、例えば中国では桜が、日本ではカヤが選ばれたということらしいです。カヤは材質が緻密で芳香を持つためビャクダンの代用になると考えられたようです。また、カヤは日本と台湾にしか自生しません。
ビャクダン(Santalum album):双子葉植物綱 Magnoliopsidaビャクダン目 Santalales
カヤ(Torreya nucifera):イチイ綱 Taxopsidaイチイ目 Taxales
11世紀からは仏像需要の高まりによる木材の不足、仏像の大型化、加工技術の革新などの理由により、建築木材としても利用されるヒノキの利用が一般的になり、現在まで続くことになります。
ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)は、マツ綱 Pinopsidaマツ目 Pinales。
上記4種の植物の内、クスノキとビャクダンは被子植物門Magnoliophyta、カヤとヒノキは裸子植物門 Gymnospermaeに属します。
材料の変遷は、思想的、物性的、生態的な様々な要素が重なり合って起こっていることがわかり、大変面白い話でした。もし当時の植生までわかるともっと面白くなるのでしょうが、文献からそれを予測するのは難しそうです。
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