2012年2月3日金曜日

第69回 LSJ セミナー

1月27日に中内啓光氏のセミナーを聴いてきました。サバティカルでStanfordに来ているそうです。講演の内容は、ES細胞やiPS細胞を使って臓器を作るというものでした。臓器をin vitroで作るのは制御が大変だということで、ノックアウトにより臓器が形成できない動物の胚にES/iPS細胞を注入して外来細胞だけで臓器を形成するようにするという研究を紹介されていました。

ES/iPS細胞を胚に注入してキメラを作るというだけの手法だと、どの臓器、器官も胚由来の細胞とES/iPS由来の細胞とのキメラになってしまいます。ノックアウトを使うことで特定の臓器が100%ES/iPS由来の細胞にすることが可能となったそうです。また、マウスの胚にラットのES/iPSを、ラットの胚にマウスのES/iPSを導入する異種間キメラも成功しています。

最終的な目的は、上記の(1)ノックアウトにより100%ES/iPS由来の特定の組織、臓器を作る、(2)異種動物のキメラを作る、の2つの技術をヒトとブタに使うことで、ヒトの臓器をブタの体内で作って人体に移植するという治療方法の確立です。

講演もわかりやすく、諸処の写真は思わずうれしくなってしまうようなものでした。問題が解決されて、臓器移植を待っているたくさんの人が救われる日が近いことを実感できました。

ただ、技術的には実用がすぐそばまで来ていることが実感できましたが、むしろ課題は、倫理や生理的嫌悪感などの解決でしょう。講演を聴きながら小林泰三氏の「人獣細工」という小説を思い出しました。多臓器不全の女の子がブタの臓器を移植される手術を繰り返し受けるという話です。おそらくホラーに分類されるのですが(角川ホラー文庫で出版されています)、SFでもあり、彼の傑作の一つと言えるだろう、時代を先取りした小説です。

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