アメリカに来て2年と3ヶ月にして初めて英語の本を読了しました。もちろん新聞や雑誌はよく読んでいるのですが、最初から最後まで通して本を読むというのは時間があまり取れずこれまで来てしまいました。が遂に、Audible.comで読み上げ版(オーディオブック)を購入し、実物の本を見ながら聴いて、ようやく読了にこぎ着けました。
記念すべき1冊目は、Sean B. CarrollのEndless Forms Most Beautiful: The New Science of Evo Devo。タイトルはCharles Darwinの「The Origin of Species」の一節からの引用。サブタイトルの通りEvo Devoが紹介されています。前半は遺伝学や発生学の古典的な実験や知識の解説、後半でEvo Devoの最近の進展が紹介されています。著者のSean Carrollは昆虫の紋様の大家。私の所属した研究室も昆虫の紋様を研究していましたから、大学院生時代から名前は知っていました。この本で繰り返し強調されているのは、進化は遺伝子調節領域の変化で起こるというテーマです。遺伝子の機能自体はおそらく多くの生物で普遍的であり、その発現する領域や時期が変化することで、生物の形態や性質が大きく変化しうるというのは最近の発生学で明らかになってきたことです。
内容はEvo Devoの研究者や学生よりもむしろ分野外の生物学者や学生に向けた、啓蒙書、教科書という印象が強い。私は分野外の研究者ですので特に、古典的な研究の意味づけについてとても勉強になりました。分子生物学が発展する前は、近縁な生物以外では遺伝子は全く別のもので似ても似つかないはずだと考えられていたこと。ヒトの遺伝子の数が昆虫とほとんど変わらないことがすごい驚きだったこと。など、今となっては想像もできないようなかつての"常識"に気づくことができたり。私には、''hopeful monster"という概念がとても印象的でした(昔授業で習ったはずでは?という気もしますが...)。
ただ、著者の、大進化(種の誕生)は小進化(種内の多型の頻度変化)の積み重ねで起こるという主張には私は懐疑的です。というより、淘汰圧により全てが説明できるという考え方(自然選択万能論)に懐疑的です。我々の最近発表した論文にもありますが、私は遺伝的浮動が大進化には重要であると考えています。
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