2012年1月24日火曜日

Wolbachiaでデング熱を防ぐ

しばらく前の論文ですが、ちょうどデング熱を媒介するAedes aegyptiのコントロールとWolbachiaとの両方を紹介したので、紹介します。

感染後の有効な対策がないデング熱ではウイルスを媒介する蚊を減らす事が有効な対策として考えられます。当然殺虫剤が使われている訳ですが、やがて蚊は耐性を獲得するでしょうし、人体への健康被害や生態系への影響も軽視できません。デング熱を媒介する蚊Aedes aegyptiだけを減少させることができればよいのですが、以前紹介したように遺伝子組み換えは周囲の抵抗も強く当面は現実的ではありません。

以下の2つの論文では、自然に存在するものを使ってデング熱を減らそうという試みを紹介しています。昆虫の共生・寄生細菌であるWolbachiaを用いて蚊の自然集団の性質をコントロールしようとする試みです。Wolbachiaは自身を効率よく伝播させるために細胞質不和合という現象を起こします.感染したオスと非感染メスとの交配で生まれた卵が発生しない現象で、これには(悲感染雌の生殖成功率を下げることで、)雌を介してしか伝播しないWolbachiaの、集団中での頻度を上げる効果があります。実際に、キイロショウジョウバエのWolbachiaであるwMelをAedes aegyptiに感染させたところ、細胞質不和合を起こし、最初65%の感染率だったものが数世代経ると100%の感染率になったそうです。また、Wolbachiaの感染は、デング熱ウイルスの血清型2の伝播を阻害する効果が認められたので、これは有効なデング熱対策の可能性を持っています。もっとも、蚊を減らす効果があるわけではないので、目覚ましい成果は期待できないのも確かです。

The wMel Wolbachia strain blocks dengue and invades caged Aedes aegypti populations
Walker T, Johnson PH, Moreira LA, Iturbe-Ormaetxe I, Frentiu FD, McMeniman CJ, Leong YS, Dong Y, Axford J, Kriesner P, Lloyd AL, Ritchie SA, O'Neill SL, Hoffmann AA.
Nature. 2011 Aug 24;476(7361):450-3. doi: 10.1038/nature10355.

Successful establishment of Wolbachia in Aedes populations to suppress dengue transmission
Hoffmann AA, Montgomery BL, Popovici J, Iturbe-Ormaetxe I, Johnson PH, Muzzi F, Greenfield M, Durkan M, Leong YS, Dong Y, Cook H, Axford J, Callahan AG, Kenny N, Omodei C, McGraw EA, Ryan PA, Ritchie SA, Turelli M, O'Neill SL.
Nature. 2011 Aug 24;476(7361):454-7. doi: 10.1038/nature10356.

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