2012年1月22日日曜日

遺伝子組み換え蚊を自然界に放す

もう一つScientific Americanの2011年11月号から。「The wipeout gene」。デング熱の被害を減らすために遺伝子組み換え蚊を自然界に放すという話です。

Scientific American November 2011 Issue

デング熱またはデング出血熱は重症の場合全身の穴から血を吹き死に至るという恐ろしい病気で、中南米で大きな問題になっている感染症です。この病気には治療法がなく、発症者の数%が死亡するという致死率の高い病気で、対策が必要な重要な感染症の1つです。幸いデング熱の病原体デングウイルスはネッタイシマカAedes aegyptiだけが媒介するので、この蚊をコントロールすることで病気を減らすことができるはずです。

現在進行中の計画はトランスジェニック蚊を用いて野生集団の数を減らすというものです。2種類のトランスジェニック蚊が実際の利用に向けて開発されました。一つは、雌雄共に次世代が幼虫の段階で死亡するというもので、中米ケイマン諸島でOxitecという会社が野生集団に放す実験を行った株です。もう一つは、この記事で主に紹介されている、次世代の雌だけが幼虫の段階で死ぬというもので、メキシコで隔離されたケージで実験が行われています。後者の方が野生集団を減らす効果は高いのですが、より複雑なので実際の実験が遅れているようです。どちらもこれまでのところかなり効果をあげていて数十%もの個体数の減少が見られるそうです。

目下の課題は、トランスジェニック生物を自然界に放すことの倫理的、あるいは潜在的なリスクです。このブログでも2011年6月6日の記事でマラリアの抑制の為にトランスジェニック蚊を使う計画を紹介しました。このトランスジェニック蚊を用いる方法についてマラリアよりもデング熱が先行しているのは、(1)マラリアが複数の蚊によって媒介されるのに対して、デングウイルスは1種類の蚊のみが媒介する(Wikipediaによるとヒトスジシマカ(Aedes albopictus)も媒介する可能性がありますがその頻度は非常に低いようです)、(2)有用な対策がない(マラリアにはキニーネなどの抗マラリア薬があります)、の2点が理由としてあります。確かにトランスジェニックの蚊が自然界に放されることで予想外の事態が起こる可能性もあります。しかし、デング熱やマラリアによる死者の数や被害の大きさを考えると、危険性を考慮した上でも実用化を進めるのがよいと思います。

実は遺伝子組み換えを使わない同様な仕組みも開発中ですが、これは日を改めて記事にしたいと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿