今回紹介する論文は、IS Finderという原核生物の転移因子データベースを開発しているグループの論文です。IS FinderにはInsertion Sequence (IS)の主なグループの特徴が記載されているため、私もたびたびお世話になっています。
REPは原核生物に見られる20から40塩基程度の長さの反復配列で、通常複数が集まってBIME(bacterial interspersed mosaic element)と呼ばれる構造を取っています。このREP/BIMEの近傍にY1 transposaseの1種のTnpA-REPがコードされていることが最近明らかになり、このtransposaseがREP/BIMEの増殖を触媒していると考えられています。そこで、BIMEとTnpA-REPを含む領域をREPtronと呼ぶ事が提唱されています。TnpA-REPはIS200/IS605 familyの持つY1 transposaseと明らかに近縁です。REPは不完全なヘアピン(塩基対形成できない部分がある)を作りますが、IS200/IS605は不完全なヘアピンを両末端付近に持っています。
Structuring the bacterial genome: Y1-transposases associated with REP-BIME sequences
Ton-Hoang B, Siguier P, Quentin Y, Onillon S, Marty B, Fichant G, Chandler M.
Nucleic Acids Res. 2012 Apr 1;40(8):3596-609. Epub 2011 Dec 22.
PMID: 22199259 [PubMed - in process] Free PMC Article
この論文では、まず大腸菌と赤痢菌の多数の株でREP/BIMEを探索し、ほとんどのものがゲノム上の同じ位置にREP/BIMEとTnpA-REPをコードしていることを明らかにし、その後、TnpA-REPの生化学的な解析を行っています。大腸菌と赤痢菌ではREP/BIMEの数に増減はあるものの全て同じ位置に集まっていることから、共通祖先でREP/BIMEとTnpA-REPを獲得した後は、転移因子のように転移したりはしていないことがわかりました。生化学的な解析では、TnpA-REPがIS200/IS605のY1 transposaseと同様の特徴(一本鎖DNA結合、MgまたはMn依存的なDNA切断活性等)を持ちながら、独自の性質も持っている事を明らかにしています。例えば、IS200/IS605のY1 transposaseがIS200/IS605の片方のDNA鎖しか切断しないのに対して、TnpA-REPは両方の鎖を一本ずつ切断します。また、IS200/IS605のY1 transposaseが結合したヘアピンから常に一定の距離でDNAを切断するのに対して、TnpA-REPは頻度は低いながらも遠い位置でもDNAを切断します。
ヘアピンでは、対合しない塩基の存在が重要で、それを対合するように変えるとTnpA-REPは結合できません。また末端に保存されたGTAGも必須です。切断は必ずCTの間で起こり、周辺の塩基も切断活性にある程度影響します。また切断したDNA同士をつなぎ変える活性も確認できました。
以上から、TnpA-REPはREP/BIMEに結合して周辺でDNAを切断、組換えることによってREP/BIMEの数の増減に寄与していることが確実になりました。著者らはREPtronは転移因子ではなく、transposon domesticationの例だと考えています。自身が増殖する事無く、他の配列の増減に寄与するというと、レトロエレメントのretronなども該当します。REPtronもretronも自身の増殖には寄与しないので転移因子とは呼べませんが、利己的遺伝因子の1種ではないかと私は思います。
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